身体で10題 1.まつげ (土沖) 総悟と一緒に相も変らぬ見回りに精を出していると、ポツと額に水滴が落ちてきた。 「あれ…雨?」 総悟が呟く間にも、バラバラと大粒の雨が落ちてくる。 みるみる黒く染まってゆく地面に、慌てて近くの軒先に身を寄せた。 「あっという間に、ひでー降りだな」 「どうせ雨宿りすんなら、団子屋がよかったですねィ」 隊服の水滴を払いながら総悟が言った。 仕方なく、俺は胸ポケットから煙草を出して一服しだした。 その間にも、雨はザーザーと庇を叩く。 総悟はその空を見上げながら、すぐには止みそうにねェや、と呟いた。 「おい、顔出しすぎだ。濡れてるぞ」 総悟の腕を掴んで引き戻す。 薄い色の前髪を伝い落ちる水滴に、総悟の眉が少し顰められて、数回瞬きをした。 「あーあ、まいりやしたね、土方さん」 ボソと総悟が呟く。 その横顔。 まつげを濡らして、頬に零れ落ちる雨の雫が、何故か昨夜のこいつの姿を連想させる。 ああ…俺もまいったぜ… 全然別の意味でだけどな。 end [*前へ][次へ#] [戻る] |