DON'T SAY ANYTHING 3 「…じか…さん…?」 ひそやかな声…ひんやりした感触に混じって、アイツの声が身体に染み透るように響いた。 意識の底から引き揚げてくれる、静かな総悟の声。 でも体が重くて、瞼が重くて眼があけられない。 来てくれたのか…? 「土方さん…」 総悟の声…本当に久しぶりだ。 それが俺の名を呼んでいる。 ああ、目を開けなければ…。 「…すまねェです…俺…」 え? …多分、いや絶対、総悟の口からこんな言葉を聞くのは初めてだ。 実際、夢かと思う。 …目を開けて確かめたい衝動に駆られる。 が、それをしないでこのまま寝たふりをしていようか。 もう少しだけ聞いていたい。 俺が、ずっと求めていたことを聞けるかもしれない。 「…土方さん」 「あんとき、死んだほうがマシだって言っちまったけど…んなこと…あるわけねェだろ」 「土方さん…わかってんだろ…土方さん…」 土方さん、と俺の名前を繰り返し呼ばれる度、うしろめたい思いにかられる。 寝たふりをしてお前の心を聴いてる俺は最低だ。 「でも、知られたくねェんです…アンタが思ってる以上に、俺が…アンタの腕を必要としてるなんて…意地でも言えねェ」 「…勝手なのはわかってんでさァ…」 「俺は卑怯モンです…でも口にできねェんでさァ…土方さん」 震える声。 初めて聞くこんなにも弱気な声。 どんな表情で言っているのか、想像なんてしなくてもわかる。 そんな声音を出させたかったんじゃない。 そんな表情は絶対にさせたくなかった。 もういい…もう解った。 もう、何も要らねえ。 卑怯なのは俺だ。 総悟、お前のそういうところ、知っていたはずなのに…。 『すまねえ、総悟』 口の中で呟き、いかにもたった今、気が付いたかのように『んー』と唸って目を開けた。 心配そうに覗き込む潤んだ紅の瞳が、一瞬にしていつもの強い光に戻った。 慌てて体を引こうとする総悟を、動く方の腕で引いて抱きしめる。 「ちょ…っ、放しなせィ! ケガ人のくせに!」 腕の中でジタバタとおとなしくしてくれない総悟に、いつもと同じだという幸せを感じてしまう。 「痛ててっ!暴れんなって。俺は怪我人だぞ」 「あ、大丈夫ですかィ?土方さん!」 「駄目だっつったらどうすんだよ」 「あー、それなら喜んで葬儀屋の手配しやす。 俺も晴れて副長就任でさァ」 「るせー。ちっとでも心配してくれてんなら、動くなよ」 ちょっと紅くなっておとなしくなった総悟は、俯いたままで『…んなもん誰がするか』と呟いた。 「お前、来てくれたんだな、俺のために」 「別にアンタの為なんかじゃ…。 このくッそ忙しいのに2日も起きねェから、近藤さんが様子見に行けって…。 だから、この際サクッと止めを刺しに来たんでィ」 「ありがとうな、総悟」 「ひーー!キモッ!あんた、キモっ! とうとう頭までやられちまったんですかィ!?」 無愛想は、ただのテレだ。 厭味は、心配の裏返しだ。 本音で喋るよりもずっと総悟らしくて、なんとなくこれで大丈夫なんだ、と安心した。 「愛してるぜ、総悟」 「なっ、なに言ってんでィ!やっぱりアンタ、頭打ったんだろ!?」 『ヤバい、キモい』と再び暴れだしそうな総悟を抱きしめた腕に力をこめて、何度も繰り返し囁いた。 逃げられないように、髪に頬に瞼に唇にとキスを降らせながら、総悟に囁きつづけた。 「……うっせー死ね…死に損ない。…バカ」 コイツからの返事は相変わらずだけれど、それがとても幸せで。 それを幸せだと感じる自分が、あまりにも可笑しくて、コイツを抱きしめたまま笑ってしまった。 end [*前へ][次へ#] [戻る] |