Cats(仮) 1 (ネコです) 丘の上に一軒の小さな家が建っていた。 そこには人間と猫が1匹住んでいる。 猫といってもまだ子猫で、けれども本人はもう大人だと言い張って聞かない。 子猫は、土砂降りの雨の中で動けなくなったところを人間に拾われた。 飼い主の近藤は気のいい男で、その子猫に『総悟』と名をつけて可愛がっている。 総悟はそんな近藤さんが大好きだ。 いつか人間になって、近藤さんのお嫁さんになる! それが無理ならお嫁さんを見つけてやる! と心に誓っている。 総悟の日課は、暖かな場所で昼寝をすることだ。 陽だまりに干してある布団の上でぬくぬくとか、縁側で爪切りをする近藤さんの膝の上とか、保温中の炊飯器の上とか。 寒い日や雨の日は外に出れなかったけれど、今日は天気もよくて暖かい。 丘の向こうのきれいな小川。 川原には大きな岩がある。 こんないい日には、日差しで温まった岩の上で一休みしよう、と総悟は小川に出かけた。 黒猫の土方が総悟を見つけたのは偶然だった。 成猫には日課がある。 テリトリーの見回りだ。 寒かったり雨が降ったりの不規則な天気がようやく終わって、久しぶりにポカポカとした気持ちのいい日差しだ。 だからわざわざ丘を登って、その向こうの小川まで足を伸ばすことにした。 基本的に猫は水が嫌いだ。 でも、入らなければ関係ない。 小川の水は冷たいだろうが、日差しが気持ちいい。 メス猫たちとの恋の駆け引きも、オス同士の喧嘩も楽しいが、どっちも厭きてしまった。 邪魔が入らないところで一休みしよう、と土方は思った。 と、そこには先客があった。 ――岩の上に誰かがいる。 岩の上に覗く頭と、たらんと垂れたシッポが見えた。 太陽はぽかぽかと暖かく、風はそよそよ、川はさらさら。 気持ちがいいのもわかるけれど、時どきシッポの先だけがゆらり動いているのしか見えない。 オス同士なら目が合えばケンカになるだろう。 でも、その相手は寝てる。 というか、ここまで近づかれて気付かないって、猫としてどうよ? ――まぁとりあえず、どんなヤツか見てやろう。 土方はひらり、岩に飛び乗った。 岩の頂上には、小さい後ろ姿があった。 細い肩。ふわふわの毛並み。 なんだ、まだ子供だ。 いまだこっくりしてる頭には、飴色の髪が揺れている。 土方が見つけてすぐ、その身体がコロリと傾いて岩から転げ落ち―― 「…っと、あぶねぇ」 ――る前に、その背中を支えた。 でもまだ起きない。 胸に抱えた頭を、土方は覗き込んでみる。 「…ガキだ」 子猫がすやすやと寝息を立てている。 よく見ると、成人した時が楽しみなほどの美猫だ。 その子は温みを感じたのか、土方の胸にすりすりと顔を擦って、ふにゃと小さく鳴いた。 ――ヤバい、かわいい。 土方は子猫が気に入った。 → [*前へ][次へ#] [戻る] |