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真夏日 3




遠くでセミが鳴いている―――――

それは真夏日。
西日の色濃く射す 暑い日・・・。




今日も総悟は、ギラつく陽射しを避けるように縁側を歩く。
思えばあれが、初めて交わしたキスだった。
ただ、子供のように唇を触れ合わすだけの・・・。それでも幸せだった。
あのまま幸せが続くと、そう思っていた。

『総悟、何かあったら俺を呼べ、絶対に』
『離れ離れになっても、絶対に見つけてやるから』

そう言って手のひらに渡された携帯電話は、あの時から鳴ることはない。






「ふう」

自室に向かう廊下に出たところで、思わずため息が漏れた。しまったと思う。

「総悟か?どうした、大丈夫か?」

案の定、隣室の障子が開き近藤さんが心配げに訊いてくる。

「や、大丈夫ですぜィ。夜勤明けで昼まで出張ってたんで、ちょっと眠ィだけなんでさァ」
「そうか。ここんトコお前も休んでねえから、夏バテしねえようにゆっくり寝ろよ」
「へい。あ、後で山崎よこしてくだせェ。
近藤さんに回す決裁書を持たせまさァ」
「わかった、後は任せとけ!おやすみ、総悟」
「おやすみなせェ」

気遣わしげな近藤に総悟は笑ってみせ、スタスタと自室に向かう。
宛がわれた部屋に入って、敷きっぱなしの布団の上にどさ・・・と倒れこむと、総悟はそのまま目を閉じた。
足音を忍ばせて部屋の前を行き来する山崎を呼び止めて、夕方起こしてくれと頼んだ。
遠くでザワザワと人々の落ち着かない声がしていた。


腫れ物を触るように自分の事を扱う近藤さんや山崎たちの善意も、隊士たちから自分に向けられる期待も不安も好意も、何もかもが総悟を疲れさせた。

あの、大規模なテロの事はよく覚えていない。
その後の事も。
意識がはっきりしたのは、ようやっと騒ぎが沈静化し、周囲から人がいなくなって独りになってからだった。


『総悟、あん時、お前が取り乱さなくてよかった・・・。だから、真選組はなんとか生き残れたんだなァ・・・』

つい最近になって、近藤さんが半べそでそう呟いた。
それに総悟は苦笑した。
取り乱さなかったのではない。
取り乱すほど、それを現実として受け止められなかったのだ。
そう、心の中で否定しながら。








『すまねえ 総悟』

『近藤さんを 頼む』


一瞬の閃光。
現場へとパトカーを急がせる先、その目の前が真っ白になり、轟音の後、全ての音が世界から消えた。

耳にしたままの携帯電話はノイズだけになっていた。










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