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一夏の思い出 3




「じゃ、お前はちゃんと寝てろ。俺が何でもするから」

そう言って枕元で覗きこむ土方さんが、なんとなくニヤけてるように見えてしまうのは、日ごろの行いの悪さの所為だろう。

「アンタ・・・変なことしたら、たたき出しやすぜィ?」
「なんだ総悟、人聞きの悪ィ。病人に手なんざ出さねーよ。いくら俺でも、もうあのパンチはたくさんだしな」

と微笑ってる。その笑顔が思いっきりウソくさいんだ、全く・・・。

この、やけに女子に人気のある、ニコ中でマヨラな顔だけいい幼なじみは、なぜか昔から俺に構ってくる。

初めて会ったのは幼稚園の入園式だ。
初対面の第一声が『オマエ、オレのおよめさんにしてやる』だった。なんて俺様なんだ。
その頃まだ健在だった俺の両親と、土方さんの両親は大爆笑してたらしい。
ちなみに俺の返事は『こんどーさんのおよめさんになるからダメ』だった。
そこで取っ組み合いの大喧嘩になった。それからの腐れ縁だ。

でも、この前、突然キスされた。
嫌でもなかったように思うけれど、あまりにも突然の事で咄嗟に体が動いてしまった。
思いっきり土方さんの頬をグーで殴ってしまったのだ。
それでも、あいかわらず何も無かったかのように俺の側にいる。

困る。

どう考えても、困る気がする。
近藤さんの隣を取り合う敵だ、まぁ良くって俺の下僕だとは思っていた。
死ねだ殺すだ言っていたのも本当だけれど、好きとか嫌いとか本気で考えた事もなかった。
まぁ、男同士なのだからそれ以前の問題だけど。

そんな事を考えて黙り込んでいたら、土方さんが話しかけてきた。

「なぁ、総悟。何考えてる?」
「…別に」
「あーアレか…」
「……」
「そんなに真面目に考えんなよ。この前の事も、その、軽い冗談なんだからな」

俺が半目でジトッと見つめていると、土方さんはちょっと焦ったように笑いながらそう言った。


冗談?
・・・この前のキスが?
冗談。
そうか・・・そりゃそうだ、そうに決まっている。
そもそも男同士なんだし。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。

・・・でも・・・。
・・・・・・・・・なんか無茶苦茶にムカついてきた。


この前から、自分なりによくわからないながらもアンタの事、いろいろ考えてたのに。
すっごく一生懸命考えていたのに。

・・・・・・・・・なんか・・・なんか鼻の奥がツンとしてきた。
熱の所為かもしれない。思考能力がなくて頭の中がグチャグチャだ。
目が熱い。
やっぱり熱の所為だ。
涙が零れそうになって、ギュッと目を閉じた。

「総悟、頭痛いのか?タオル替えるか」

うるさい、うるさいっ。
優しくなんてするんじゃねェ!この偽善者め!
土方さんの言葉が気に障る。

「ちょ総悟、もう一回熱測ってみろ。上がってきたんじゃねえか?」
「もういいでさァ、アンタ帰ってくだせぇ・・・!」
「どうした、急に?」
「うるせー!帰れっ!」
「総悟・・・」


「俺のことそんなに嫌いか?」

とても傷ついたような声で土方さんがそんなこと言うから、思わず俺は目を開けてしまった。
なんで。
なんで、アンタがそんな悲しそうな顔をするんだ?

「ア、アンタが、冗談で変なことするからっ、俺は無ぇ頭を一生懸命使っていろいろ考えたんだ!それなのに冗談で優しくなんてするんじゃねェ!!」
「総悟?」
「うるさい、うるさーいッ!テメエなんか知らねえ!死ね土方!嫌いだッ!」

もう自分でもなに言っているのかわからない。
でも、止まらない・・・。

「タラシのアンタは慣れてるかもしれねぇですけど、俺は初めてでっ、よくわからなくて、でも嫌じゃなくって・・・。酷いじゃねえですかっ、冗談であんなの・・・ッ。もういい!帰れよッ!!」

支離滅裂な事を言っている俺を、なぜか土方さんは嬉しそうに見つめ、ニコニコ笑っている。

「なんでィ、なにを笑ってんでィ!クソ土方!」
「わかったから。もういい、総悟。熱が上がるから、おとなしく寝ろ」
「なっ、死・・・ッ!」

死ね土方!と叫ぼうとした言葉ごと、土方さんの唇に塞がれた。触れただけなのにそのまま固まる。
・・・こんな時にでさえ、やっぱり嫌じゃない・・・かも。
なんで?

「バカ総悟。んな嬉しいこと言われたら、止まんなくなるだろう。お前のこと、本気で俺だけのものにしたくなる・・・」

なんだ?それ。
アンタ、何言ってんです? 風邪がうつって頭沸いちゃった?

「好きだ、総悟。冗談で男にキスなんかできるわけ無えだろ」


・・・・・・真っ白。


この突然の告白を、俺はこの沸騰した頭でどう考えればいいかわからなくて、土方さんの顔をただぼーっと見ていた。

「総悟、俺のこと好きか?」

俺はまだ固まったままだった。
ううう・・・自分のことは多分バカなんだろうと思っていたけど、ホントに日本語までよくわからなくなってしまった。
好きかって・・・なんだろ。
でも、冗談じゃないって・・・本気だって。
それはなんだか嬉しい・・・ような気がしないでもない。
でも・・・体が熱くて、頭が・・・熱くて・・・
なんだか・・・よくわからない。


「さっきお前言ってたけど、本当にキライなわけ、じゃねー、よな?」

その心細げな声はなんとなくわかった・・・ような気がする。

「・・・ん」
 
嫌いじゃない。
キスだってぜんぜん嫌じゃなかった。
よくわかんない・・・でも、アンタのそんな悲しそうな顔は見たくない。
いつもみたいにしててくれればいい、俺の側で。

そんな事を思った途端、うわ〜〜!!世界がぐるぐる回りだした・・・!
なんでィこりゃ!?
目の前が暗くなって、地球がすごい速さで回って回って回って・・・ぎゃー、振り落とされるぅ・・・!!

また、遠くで俺を呼ぶ土方さんの声がする・・・。









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あきゅろす。
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