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Triangle 8







手当てを終えて、一呼吸おいてから改めて、俺は訊いた。

「で? なにがどうしたんでさァ?」
「そりゃこっちのセリフだ、総悟。最近のお前・・・いったいなんなんだ?」

あー、やっぱりその事か。
だって仕方がなかったんだ。別のものが、頭を支配してるんだから。
確かに、話しかけられてもボーッとしてることが多かったかもしれない。
その所為で、もともとあんまり自分からベラベラ喋らない方だった土方さんの口数も、ここの所で相当に減ってしまった。

「そりゃあ、俺の所為ってわかってやす。ホントにすいやせん。ちょっと考え事してたんでさァ」
「わかってる。終わりにしたいんだろ、俺と。・・・飽きたんだろ?」

はァ・・・?
だ〜か〜ら〜、ちょっと待てって!!
なんでそういう方向に話が行くんでィ!?

「こっちが話しかけても聞いてねえ。セックスしてもノって来ねえ。態度でバレバレなんだよ。お前の新しい相手は、俺より甲斐性があって、ハンサムで、金持ちか?」
「違いまさァ、土方さん。そりゃアンタの・・・」


勘違いでさァ!と言おうとしたのに・・・。(ついでに、なんで男限定なんでィ!とも思ったけど)

「んな言い訳なんざ聞きたくねえ!おおかた、俺に世話ンなったからって、お前の方から切り出せなかったんだろ!?」
「土方さ・・」
「お前が俺のことを何とも思ってねえことくらい、最初ッからわかってんだよ!だから、俺の方から別れてやるって言ってんだ!!」
「・・・・・・・・」
「なにも言えねえ所をみると、図星だろ。やっぱり・・・」
「・・・ぅぷ・・・」
「ぷ?」
「ぷ・・・ぷぷーーッ!!・・・くく・・・くっくっく・・・あはは、あーーっはははは!!!」

俺は思わず、思いっきり吹き出して、そのまま笑いの発作に襲われてしまった。
だってあの土方さんが・・・、土方さんって・・・、
ひーじーかーたーぁー!!
ダメだ、止まらねェ。

思いっきりゲラゲラ笑った俺を、しばらく呆気にとられたように眺めていた土方さんは、それでようやく落ち着きを取り戻して、いつものクールな顔に戻った。
思いっきり眉間に皺を寄せたままだったけれど、さっきより静かな声で、土方さんが言う。


「なにがおかしい?」
「ひっ・・ひっ・・・じかたさ・・・。あはは・・すいやせっ・・・止まらねェ・・・くくっ!あ、アンタ、そういう、人、だったんだ!」
「・・・なんだ?」
「あははっ・・・し、嫉妬、とか、俺にゃ全然関係ねえ、って顔して・・・っ、くくっ実ァ、水面下でメラメラ燃えさかって、たんですねィ!あはははは!」
「な・・・っ!」

土方さんが赤くなった。
この人が、マジ切れするのも、赤面するのも、こんなふうに絶句するのも初めて見た。
ヤバイ。
おかしい。涙出た。



「ね、土方さん、教えてくだせェ」

笑いがようやく収まった俺は、笑いすぎて浮かんでしまった涙を、手でゴシゴシ拭きながら、さらりと訊いてみる。

「アンタ、俺のことが好きなんですか?」

土方さんは、思いっきりその綺麗な形の眉をしかめて、睨みつけるように俺を見た。
いつもの貌が冷たさを増す。
どんな顔をしてもイイ男だなぁ、と思った。

「えーと・・・からかってねェです、ホントでさァ」

ただ、土方さんの答えで、俺のこの変な疑問が解けないかとは・・・少し、いや、かなり思ってる。
俺が真剣にそう続けて言うと、土方さんはいつもの表情に戻って、ハァーッとため息をつきながら肩を落とした。
頭をガシガシッと掻いて、やっとその存在に気づいたように、テーブルにあった煙草を取って口に銜えた。
さっきからこの人は百面相しっぱなしだ。
面白がっちゃいけないけど、おもしろい。


「・・・総悟。俺がお前と一緒に暮らしている意味、お前わかってんのか?」
「え、意味って?」

「オマエみたいに、男にも女にもだらしなくて、ねーちゃんの事以外、一切の面倒とか生活全般とか全く考えねえで、楽な方へ楽な方へと流れて行くくせに、世間の荒波をヒョイヒョイわたっちまう様なろくでもねえ莫迦と、モテるわ才能もあるわ仕事もできるわで、バリバリ働いて稼ぎまくってる俺が、何で好き好んで一緒に暮らしてんのかって事だよっ!!」

「アンタ、文句長すぎでィ・・・」


ろくでもねえ・・・って、莫迦って・・・あー、否定はできねェけど、なんかすっげームカツク言われようだ。
ムッとして顔を顰めている俺に、さらに土方さんは言った。


「怒りてえのはこっちだっつーの。
一緒に暮らさねえか、って俺がやっとの思いで言った時も、“まぁいいですぜィ”だけで終わらせちまって。
テメエ、言葉の意味なんて、考えもしなかったんだろ?」
「う・・・そんなこと・・・無ぇことも無ぇですケド・・・」


図星だ。
なんも考えてなかった。


「あ、あのね、土方さん。何のメリットもねェのに、土方さんはよく俺と一緒にいるよなーって思ったことは、一度や二度ありまさァ・・・」
「だったら!」


普通はわかんだろ、そこまで言ったら!!と土方さんは怒鳴った。
が、わかんねーもんは仕方がない。
盛大にクエスチョンマークを飛ばしながら、首をふるふる横に振った。


「??なんなんでさァ・・・いったい??」
「はぁー・・・。俺ァなんだか自分が惨めになってきた・・・」


土方さんは、まぁお前だから仕方ねえ、とため息をもうひとつ吐くと、俺の顔をじっと見て言った。



「俺はお前に惚れてんだ。
愛してるんだよ」







ヤバイ。
ますます、俺は「好き」の意味がわからなくなった。










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あきゅろす。
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