アンドロイド総悟は電気羊の夢を見るか? 3 煙草の密売(と言うには派手すぎだが)現場から早々に逃げ出し、俺は総悟をつれてマンションに戻ってきた。 「はぁー・・・」 俺はやっとの思いで、総悟は涼しい顔で、33階まで上がって来た。 エレベーターがぶっ壊れていても、下りはまだいい。問題は上ってくるときだ。 さすがにここまで一気に上がってくるのはキツイ。 総悟が居なければ、途中でちょっと休憩を入れたいところだが、そんな事をしようものなら、コイツは俺をおぶって上がりそうだ。 そんなの冗談じゃねえ。 ゼーハー息を切らせたままドアに手をつけ、瞳を合わせてロックを解除する。 先に立って部屋に入り、持っていたペットボトルをダストボックスに投げた。 総悟は、開いたドアの所で一旦止まり、気配を探るように身構えてからゆっくり部屋を覗いた。 「お前よりいい機械なんて、ウチにゃあねえよ」 と、気づいて、声をかける。 それでも総悟は左右を見回しながら、緊張した様子で部屋に入ってきた。 「おかえり」 声がした。 総悟が視線だけでソッチを見て、興味を無くしたように左右を眺めた。 声の主は、親の代から置きっ放しのインコのロボットだ。鳥かごに入っている。 とんちんかんじゃない受け答えが、たまーにできる程度で、なんの役にも立たない。 「まぁ、お客さま。こんにちは、ごきげんよう。今、お茶の時間です!」 「ああ、わかったわかった」 俺は総悟にソファーに座るよう促した。 総悟はそんな俺を見てから、もう一度部屋を見回した。 「どうした?」 「家事ロボットも使ってねェんで?」 「ああ」 「ふうん。・・・もしかして、土方さん、機械は嫌い?」 「いや、置こうと思ったことがねえだけだ。自分でやった方が早えし」 「へー。マシンフォビアかと思いやした。・・・よかった」 呟く総悟の口元が、少しだけ緩んでいるような気がした。 総悟はソファーに座るとポンポンと隣を叩いて、土方さん、と俺を呼んだ。 まさか、呼ばれていそいそと隣に座るわけにもいかず、俺は突っ立ったまま総悟を見て、なんだ、と訊いた。 「話、しやしょうか」 「なんの?」 「まずは、礼を言わねぇと」 「は?だから、なんの?」 自分でも、なんて間の抜けた答えだと思った。 でも、総悟は気にした様子もなく、言葉を紡ぐ。 「だって、土方さん。俺を拾ってくれましたよねィ」 「んなの、ただの成り行きだ。助けられたのは俺なんだ、礼を言うのは俺の方だろ」 「あれは、ただあいつ等が気に食わなかっただけでさァ」 「でも総悟、平気なのか、お前?一応アレでも警察の機械だぞ」 「まー、だいじょぶでしょ。一応俺も、ご主人様を守った、って事でなんとかならァ」 ご、ご主人様って・・・俺か?俺の事か!?と、慌てそうになる。そうか、コイツを拾うってことは、そういうことになるのか!? そのまま言葉を交わしているには、手持ち無沙汰すぎるが、さっきのトラブルの元になった煙草を出して吸うのは些か気が引けた。 仕方ないので、キッチンに立ってお茶を入れることにした。 俺がキッチンに移動すると、総悟も立ち上がってついてきた。俺の横に立ち、お茶を淹れる手元をジッと見ている。 「なんか珍しいもんでもあるか?」 「俺に、茶を淹れろ、とは言わねぇんですねィ」 「やったことあんのか?」 「ねえです。知識としてなら」 「なら、自分でやった方が早えだろ。それともやってみてえのか?」 あまりにもジッと見つめているので、横目で総悟を見ながらそう訊くと、別に、と返ってくる。 その、総悟の横顔から、なぜか目が離せない。 と、総悟がこっちを向いて、大きな目をして俺を見つめる。 「ね、土方さん。俺の顔は好みですかィ?」 「ばっ、莫迦!お前、なに言って・・・アチッ」 慌てて、注いでいたマグからちょっとお湯を零してしまった。 総悟は、あぶねェですぜィ、と言って俺の手からポットを取って置き、ポットの代わりのように俺の懐にスルリと入ってきた。 そうして、俺の背に手を回す。 「土方さん、あのね、俺ねェ」 「そ、そ、総悟・・・!?」 「んな慌てねェで。今・・・」 今? 今、何を言うのか。 今、なにかしてくれんのか。 その続きは聞けなかった。 その時、急に玄関のドアが開いて、土方さーん帰ってますか〜あーもうココの階段キツくて死にそうですよー、と息を切らせた山崎が飛び込んできた。 しまった、ドアロックしてなかった。 山崎は額に浮いた汗を手で拭いながら、部屋を見回して、俺を見つけて、そのまま固まった。 総悟に擦り寄られたままで、俺も固まった。 総悟は山崎を無視して、わざわざ俺の肩口に顔を埋めた。 時が止まっていた。 → [*前へ][次へ#] [戻る] |