土沖: 精一杯の愛情表現を、アンタは気付かないふりをするんだね (長文選択お題より) シャキン! 小気味良い音が耳元で響いて、俺の髪が一房落ちた。 「いきなりバッサリやりすぎじゃねェですか。 上手くやれよなァ」 「ハァ!?文句言ってんじゃねえぞ。 この忙しいのに、わざわざ時間割いてやってんだ」 「あーあ。客の注文を無視するなんて、ろくな床屋じゃねェな」 「誰が床屋だ」 屯所の縁側に新聞紙を敷き詰めて、首には風呂敷を巻いて、目の前の柱に姿見を立てかけて、簡易な床屋のできあがりだ。 「あーあ。もうちょっとで結べたのに」 「前髪ちょんちょりんに括ってたじゃねーか」 「ちょんちょりん、って・・・あんたが言うとキモッ」 「うるせー!」 「ありゃ山崎にやられたんでさァ。 目ェ悪くなるからつって」 「お前伸びすぎなんだよ。 まったく、なんだって俺が・・・」 言いかけて、土方さんは口を噤んだ。 以前は誰に切ってもらっていたか、思い至ったんだろう。 それと、俺がおいそれと他人に髪を触らせないことも。 「アンタのために伸ばしておいたんでさァ。ありがたく思いなせェ」 「あーあー、そりゃどうもー」 「どういたしまして。 死ね、って願掛けしても一向にくたばんねェから、切ってやらァ。 感謝しろよ土方」 「いちいち偉そうなんですけど!」 半分ホント、なんだけど。 願掛けなんて、女がやるようなもんだろうけど、俺にはそんな風にアンタを想うことしかできないから。 「そっち、なげェですぜ」 「うるせー!いいんだよ、これで頭洗えば丁度よくなんだよ!」 「なんなかったら、どうしてくれるんでィ!?」 「また切りゃいいんだろうが!」 ふぅん。一応考えてんだ。 これも慣れってヤツだろうか。 ジャキッ、ジャキッ。 俺の髪はみるみるうちに短くなっていく。 『やっぱりかわいいな総悟』って近藤さんが言うから。 『やっぱりミツバさんに似てますね〜』なんて山崎が言うから。 足元には風呂敷を伝って滑り落ちていった髪の残骸。 まるで俺の想いが切り取られて降り積もっていくようだ。 鏡を見ると、段々と戻っていく自分の姿より、真剣に俺の頭をいじっている土方さんを目で追ってしまう。 「・・・・・・おっしゃ! 髪洗って来い!」 「えー。洗えよ、床屋」 「ふざけんな!!」 さすがは簡易床屋。 シャンプーは風呂場でセルフだよなァ。 濡れ髪をそのままに、肩にタオルをかけて戻ってくると、縁側の新聞紙は丸めて片付けられていた。 山崎が庭に散った髪を掃いている。 横を通ったら、『あー!沖田さん髪ビショビショじゃないですか!ちゃんと拭いてくださいよ!』と怒鳴られたので、山崎のクセに、と新聞の中身を廊下に撒き散らしてやった。 勢いよく、障子を開け放って部屋に入る。 土方さんは、煙草を銜えてもう書類の前だった。 「戻ったぜィ。床屋、肩揉んでくれィ」 「誰がやるか」 顔を上げた土方さんは、気付いた様に立ち上がると、タオルを取って俺の髪を拭き始める。 何のかんの言っても、この人はかなりの世話焼きだ。 「ちゃんと拭けっていつも言ってんだろうが」 「自然のまんまが好きなんでさァ」 「今の季節ならいいけどよ、冬はやめろよな・・・っと、こんなもんか」 拭き終わった髪を簡単に手櫛で整え、鏡見てみろ、と土方さんは言った。 「それを言うなら裏声で『お客様いかがでございましょう』って言って下せェ」 「うるせー」 「あ、さっき長かったとこ、ちゃんとなってら。アンタ意外と器用ですねィ」 「当たり前だ、総悟。 お前のことくらい、よくわかってるってーの」 嘘つけよ! このニブチンが。 [*前へ][次へ#] [戻る] |