銀沖: この世の中にひとつでも確かなものがあるなら俺に見せてくれよ (長文選択お題より) (ミツバ編後) 「旦那ァ」 「わっ! ちょ、ちょっ・・・俺今、ラーメン作ってんだけど」 後ろからドンと突かれて、危ねーなぁ、と言うと、沖田くんは悪ィですねィ、なんて全然悪びれた様子もなく、笑いながら俺に抱き付いてくる。 また、窓から入ってきたのか。 「俺ァ、ラーメンに卵入れんのはどうも好きじゃねえんです。こう、汁が濁るのが許せねえんで、とっとと先に食っちまいますがねィ」 「なに、ゴーセイに卵入れろってか?うちに卵なんざあるわけねえだろ。わかってて言ってるんだよね?」 掻き混ぜている鍋を横から覗きこむ沖田くんに、視線は時計のままでそう返してやると、背中に頭をグリグリっと擦りつけられた。 「でも、夜食たァ、旦那にしてはゴーセイじゃねえですかィ。 俺はどっちかっつーと今、肉まん気分なんで。 ちょっとセブンまでひとっ走りして下せえ、旦那」 「話聞けよ。なんで俺が行くんだよ? 大体ここをどこだと思ってんの?万事屋だよ? 折角の夜なんだから、いつまでもフラフラ夜遊びしてねえで、自分の布団で寝ろよ」 「えー俺は旦那と一緒にずーっといたいのにだめなんですかィー」 「そんな棒読みで言われても、銀さん嬉しくないから」 嘘だよなぁ。 本当は、独りになるとあの人のことを考えてしまうから。そうだろ? あの日からずっと、こんな、らしくない甘え方してくることが何よりの証拠。 今までは強引なペースで俺を巻き込んでたのに、今はこんな、いつも、何かを確かめてるような。 ホントにコイツらしくない。 ・・・・・・。 「この真剣な目ェ見てくだせェ。アンタと違って死んでねェです」 「うるせえよ。これ食ったら帰ェるんだぞ。ゴリが心配して乗り込んで来っから」 仕方なく、出来たラーメンをどんぶりに半分だけ分ける。 沖田くんは、子供みたいに割り箸を持って、ソファーに正座して待っている。 その前にドンと置いて、自分は鍋からズルズルとラーメンを啜った。 しばらくはお互い、麺をずるずる言わせてる音しかしなかった。 「ねー旦那・・・今日俺、ここで寝ていいですかィ?」 「え、うちに余分な布団なんざねえよ?」 「別に俺ァ構わねぇです・・・ダメですか?」 沖田くんは、チラッと神楽が寝ている押入れの方を見た。 「ダメって訳じゃ、ねえけどよ」 そう言って、子どもをあやすみたいに頭をくしゃくしゃ撫でたら、そっかって安心したようにため息をつかれた。 いつも無表情なのに、その口元が少し緩んでいる。 どうして、そんな顔するんだ? 俺は、あの人じゃねえぞ。 あの人には、逆立ちしたってなれねえってのに。 その顔を見ていたくなくて、沖田くんを引き寄せて抱きしめた。 「旦那ァ・・・アンタは、どこにも行かねェですよね?」 「・・・ん、何だって?」 わざと聞こえなかったふりをしたら、何でもねェです、って消え入りそうな返事だけが返ってきた。 抱き返された背中が、熱い。 「・・・そーごくん」 確かめるように、名前を呼ぶ。 存在を確認されているのは俺の方の筈なのに、いつかコイツまで消えてしまうんじゃないか、なんて思ってしまう。 「・・・へい?」 少し遅れて、返事が返ってくる。 顔を見ようとしたが、ぎゅうと肩口に顔を埋められて、表情は読み取れなかった。 「・・・寝るか」 やっとの思いで返した言葉は、どこか不自然に聞こえた。 窓から覗く星の見えない空は、あの日と同じだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |