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セブンス・リート

目の前に現れたのは、屹立する無数の柱だった。磨き抜かれた石のような表面は、どこからか差し込む光を受けて青白い。ジョイスはそれを追いかけて視線を上げたが、柱は高くそびえ立ち、終わりにたどり着くことはできなかった。
シルバに促されるまま作業部屋の南側の扉をくぐった先は、柱が並ぶ空間だった。アークは中に入ろうとはせず、扉の側に佇んでいる。先程の一件のせいか、目を合わせようとしない。
ジョイスの方も何と声をかけていいのか分からず、二人の間にはぎこちない空気が流れている。
「これが何か、分かるかい?」
先導して中に入ったシルバは、林立する柱を指し示した。
今まで生きてきてこんなにも巨大なものは見たことがない。ジョイスは首を振った。
「ほら、君たちの生活に最も身近なものだよ」
「オレたちの生活に?」
ジョイスは考え込んだ。
「これ、触ってもいいか?」
尋ねてから、先程の光景が蘇る。触ろうとした途端に吹き飛ばされやしないだろうか。
「大丈夫だよ、ここには『音』の障壁は張っていないからね」
考えが顔に出ていたのだろう、シルバが可笑しそうに言った。
「わ、わかった」
恐る恐る、という様子でジョイスはそれの表面に触れた。最初に見た通り、いや、それ以上に表面は滑らかだ。手のひらに、ひんやりとした感触が伝わってくる。試しに握りこぶしを作って叩いてみたが、衝撃など何もなかったかのように、表面には凹み一つつかなかった。逆にこちらの手が傷つくのではと思うほどの硬さだ。
つるつるとした触り心地に誘われるように、ジョイスは柱に両腕を回していた。ただ、ジョイスの腕の長さでは柱の周りを全て囲うことはできない。大の男が五・六人いれば足りるだろうか。
「どうかな? 何か分かったかい?」
「んー……」
 柱に抱きつき、頬をくっつけた状態でジョイスは唸る。
「石みたいに、硬くって、ひんやりしてて、つるつるしてて、でも石じゃなくて……」
 普段なら、すぐにアークに助けを求めるところだ。しかし、二人の間に流れる妙な空気のせいで、それもできない。振り返りたいのを堪えて、ジョイスは答えよ出てこいとでも言うように柱の表面を睨みつけた。だが無情にも、柱はその険しい顔を映し出すだけである。
「あーだめだ分かんない!!」
ジョイスが頭を抱える。すると、背後で何回か咳払いが聞こえた。
「あー……。一日の生活を思い出してみたらいいのかもなー……。これは独り言だけどなー……」
うずくまっていたジョイスの肩がわずかに動く。ゆっくりと柱に頭を押しつけ、目を閉じた。
 朝目が覚めて、顔を洗って、そうしたら窓から屋根へ上がる。肌寒さを感じれば毛布にくるまり、学院を眺める。それから『録音機』を取り出して歌の練習を――
 そのとき、ジョイスの頭の中で何かが閃いた。右手を胸元にもっていき、一度握りしめる。
『録音機』だ!」
 次に振り返ったジョイスの顔は確信に満ちていた。
「これ、触った感じが『録音機』と同じなんだ! えーと、だからこれは……」
改めて目の前の柱を見上げる。柱の表面をゆっくりと撫でると、その名前を口にした。
「コークロス……?」
「その通り」
瞬間、耳元で何かが弾けるような音がした。
 驚いて見ると、柱の表面に長方形の線が入っている。先程までこのような模様はなかったはずだ。横合いから手が伸びてきて、長方形の線で囲われた中心を軽く叩く。すると、四角い破片が落ちてきた。
「君の『録音機』の元となる木。これが『音の木(コークロス)』だよ」
破片を手のひらに収めて、シルバがにこりと笑った。

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