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セブンス・リート

「いたたたたたっ! おま、何するんだよ? まだちゃんと治ってないんだから!」

  ジョイスは目に涙を浮かべ、アークから逃れようともがいた。しかし、アークの力は思ったよりも強く、動けば動くほど、しっかりと手を捕らえられてしまう。


「このバカ野郎!」


  突然のその声は、ジョイスの体を芯から揺さぶった。驚いてアークを見る。その瞳は、何か感情を押し殺しているようで、どこか辛そうにみえた。

「アーク? どうしたんだよ……」

  戸惑いながらも声をかけたジョイスは、自分の手を掴むアークの手が、震えているのに気が付いた。

「勝手に動くなっていつも言ってるだろうが。この程度の怪我でよかったものの、何かあったらどうするつもりだったんだ」

  ジョイスは返事をしようとしたが、言葉が出てこなかった。
  震えた手で、低い声で、淡々とアークは続ける。

「ここにいる全員が怪我をしたかもしれない。お前だって、もっと重傷を負っていたかもしれない。『録音機』に触ろうとしたとき、少しでも考えたのか?」
「っ……」

  何も言い返せず、俯くしかなかった。それが答えだった。
  しばらくの沈黙の後、アークが懇願するように、

「……頼むから、もう少し周りを見てくれ」

  言い終ると同時に、ジョイスの手を離した。体が平衡感覚を失い、その場でたたらを踏む。

  何か言わなければ、と思った。でも、何と言えばいいのだろう。謝ればいいのだろうか。今度から気をつけるとでも言えばいいのだろうか。しかし、何を言っても、今のアークには届かない気がした。

  アークはジョイスの側を離れ、シルバに近づくと頭を下げた。

「シルバ、すまなかった。ジョイスを止められなかったのは、俺にも責任がある。修理を頼んだのはこっちなのに……」
「いや、僕にも責任はある。部屋に入った時、君たちに注意しておくべきだったんだ。どうか、顔をあげて」
「『録音機』は無事なのか?」

  アークは『録音機』の固定されている長机を見やった。

「見てみるね」

  シルバが長机に近づき、ためらいなく『録音機』に手を伸ばす。

「あ、あぶなっ……」

  ジョイスが思わず声を上げる。火花の散るバチバチという音、目の眩むような閃光、倒れ込むシルバの姿――はなかった。

  シルバは軽々と『録音機』を取り上げた。ひっくり返しながら、『録音機』の裏表を確認する。優しい手つきで木彫りの部分を撫でると、その顔に安堵の表情が浮かんだ。

「……よかった。壊れたところはないみたいだ。多分、完全には触れていなかったんだね」
「あの、シルバは、触って大丈夫なのか……?」

  ジョイスがためらいがちに声をかけると、シルバは小さく笑った。

「これに触るには、コツがいるんだ」
「コツ?」
「作業をしていないときは、『音(フォノ)』で『録音機』全体を覆っているんだ。外からの刺激は全て跳ね返すよう調整しているんだよ。僕以外の誰かが触って、大切な『録音機』が壊れてしまわないように」
「あ、だからオレが触ろうとしたとき……」

  シルバが頷く。

「君は『音』の障壁に跳ね返されたんだ」

  アークが、ジョイスは「吹き飛ばされた」と言ったのはほぼ正解だったようだ。手の痺れは『音』の障壁に触れたためだったのだ。

「だから、こうすれば……ほら」

  シルバの手が再び障壁の中に入る。何事もなかったかのように『録音機』を元の位置に戻した。

「それって、どうやって……?」
「教えようか」
「いいのか!?」
「ただし、一仕事してもらうよ」
「ひとしごと?」

  ジョイスが首をかしげると、シルバは外に出るよう促した。

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あきゅろす。
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