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セブンス・リート

  目の前の答えに飛びつくのはとても簡単だ。きっとこの気持ちも楽になるだろう。けれど、

「納得……できるけど、あとで納得できなくなると思う」

  いつか、飛びついた答えを疑う時がくる。簡単に手に入る答えは、よく考えることをせずに得たものだ。今は良くても、後々、その答えを選んだ自分自身を疑うようになってしまう。

「なんだ、ちゃんと分かってるじゃないか」

  ジョイスの答えを聞いて、アークは安心したように息をついた。

「お前のその疑問は、簡単に答えが出るものじゃないんだと思う。その答えこそ、自分で見つけ出さないといけないんだ。そうしないと、お前自身が納得しないだろうし、納得しなければお前の本当の答えにはならないんじゃないか」

  ぱちぱちぱち、と音がする。リーリエが拍手をしたのだ。

「あらー! いいこと言うじゃない、アーク」
「か、からかうなよ!」

  かなりクサイ台詞回しをしたことに気が付いたのか、アークは慌ててカップを持ち上げた。紅茶を飲む振りをして顔を隠したかったようだが、首元まで赤くなっていてはそもそも無理な話だ。挙句、紅茶にむせて盛大に咳き込んだ。それを見ていたシルバは、つられたように笑い声を上げた。

「あっ、シルバまで!」
「ご、ごめんごめん。でも、あまりにもおかしくって……」

  肩を震わせて笑うシルバは、普段の穏やかな雰囲気を纏っていた。

「……僕が悪かったね。急にこんなことを言われても、困るだけだね」

  すまなさそうに肩をすくめたシルバは、手元の紅茶がすっかり冷めているのに気がついて、苦笑した。リーリエが淹れたてのものと取りかえると、礼を言ってからジョイスとアークに向き直った。

「君たちは、互いに支え合っているんだね」

  ジョイスはきょとんとした顔をした。そのままアークを見て、

「オレたちが? 支え合い?」
「……なんだその意外そうな顔は」
「アークになんか支えてもらってたっけ?」
「十年以上も一緒に居て、今それを言うか……」

  アークが頭を抱える。やはり、自分が気をつけて見ていなければ駄目なのだ。

「芝居小屋での歌声も、素晴らしかった。あれはやはり、アーク……君が舞台に上がってくれたからだと思うんだ」
「え、すっげーガチガチで台詞棒読みだったのに?」

  言った瞬間飛んできた拳をひょいと避けて、ジョイスは首をかしげた。それでもだよ、とシルバは続ける。

「アークが舞台に上がった時から、ジョイスの様子は変わったんだ。覚えはないかい?」

  問われて、ジョイスは芝居小屋でのことを思い起こす。アルベールの歌声に圧倒され、動けなくなっていた自分。そんな自分に真っ青な顔で近付いて、笑って見せたアーク。あの瞬間、不安も緊張も一挙に吹き飛んだ。

「よく分かんないけど……歌うのが楽になった、と思う」
「その感覚を忘れないで」

  シルバは目を閉じた。

「聖歌学院への入学を目指しているなら、その感覚はきっと君の成長の糧となる」
「ホントか!?」
「きっとね。……そうだ」

  紅茶を飲み干すと、シルバは立ちあがった。

「こういうのはどうだろう。君たちに知るチャンスをあげよう」
「チャンス?」

  ガタン、と大きな音がした。ジョイスが驚いて音のした方を見ると、リーリエが椅子を蹴って立ち上がったところだった。

「……シルバ、まさかとは思うけど」
「いいんだ、リィ。この子たちは知る権利がある」

  妻の咎めるような視線をなだめるように、シルバはほほ笑んだ。


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