突如現れた爽やか少年[2] 「……い」 …誰だ? 「おい、大丈夫か?」 …誰の、声だ? 「こんなとこで寝てたら風邪引くぞ?」 ああもううるせぇよ。 正当王子が寝てんだぞ。 それを起こすなんて何処のどいつだよ。 「おいってば!大丈夫か!?」 「………誰?」 「お、起きた!良かった、生きてたんだな!」 目を開ければ、目の前に爽やかに笑う男が1人。 あれ…コイツ何処かで… 「誰って…俺は山本武。つーかまだ名前覚えてくれてねーのな」 「…山本武…」 そうだ。 思い出した。 コイツは未来の記憶にあった、ボンゴレ十代目の守護者だ。 でも、コイツと直接会った記憶なんてない。 「名前を覚えてくれてないってどういうことだ?」 「ん?だってお前、たまにうちの店に寿司食いに来るだろ?それにもう何回も会ってるし…」 ああ、なるほど。 俺はまたベルと間違われているってわけだ。 確かにベルはヴァリアーだし、コイツとの面識もあるだろう。 「…何の用?」 「何の用って…雨ん中こんなとこで寝てたら風邪引くだろ?」 「…お前に関係ないじゃん」 「あのなぁ…取り敢えず、うち来いよ。服とか渇かさねーと」 「…………」 「?どした?」 「違ぇよ」 「違う?何がだ?」 「俺は、ベルじゃない」 俺がそう言うと、山本武は少しの間きょとんとして、直ぐにニカッと笑った。 「そっか!間違えちまってごめんな。あまりにも似てたからさ…」 「知ってる。アイツは俺の弟だから」 「ん?じゃあお前、ベルフェゴールの双子の兄貴ってやつか!」 俺はコクリと頷く。 すると山本武はまた笑った。 「名前、なんて言うんだ?」 「聞いてどうする?」 「呼ぶのに困るだろ?」 「…ラジエル」 「ラジエルか。よろしくな!」 何故コイツはこんなにも爽やかなんだろう。 きっと、お人好しで甘ちゃんタイプだ。 「取り敢えず、うち来いって。直ぐそこだからさ。腹、減ってるだろ?」 「……いい」 「何でだよ?」 「…他人に借りなんて作りたくない」 「借りって…気にすることねぇって。俺が良いって言ってるんだし」 「…でも」 「いいから!うちの寿司はベルフェゴールもお気に入りなんだ。きっとお前も気に入るからさ!」 結構強引な奴だ。 山本武はグイグイ俺の腕を引っ張る。 だが俺はもう体を動かすだけの力は残って無かった。 本当は喋るのも辛い。 「…もしかして、歩けないのか?」 「…うるせぇよ」 「そっか。そうならそうともっと早く言ってくれよ!」 「へ?…あぁ…っ!?」 グイッと勢い良く引っ張られたと思えば、俺の体は宙に浮いた。 目の前には、山本武の頭。 俺は、山本武に背負われていた。 「なっ…降ろせ!」 「だって動けないんだろ?」 「うるせぇ!動ける!」 「いーから背負われてろって。つーか凄く軽いんだけど、ちゃんと食ってるか?」 …食ってねぇから動けなくなってるんだよ。 分かれよ…やっぱり馬鹿なのかコイツ。 山本武は俺の抗議なんか聞き入れず、スタスタと歩き始める。 少しすると、『竹寿司』と書かれた店の前に着いた。 山本武はその店に入る。 「いらっしゃい!って武か…おかえり」 「親父!ただいま」 「お?いつものボウヤじゃねぇか。どうしたんだ?」 「あぁ、コイツはアイツの双子の兄貴なんだ。それよりコイツに寿司食わしてやってくんねぇ?弱ってるみたいでさ」 「おう!もちろんだ!でもその前に風呂に入れてやんな。服は武のがあるだろ?」 「おう。わかった。ほら、行くぜ」 山本武は俺を背負ったまま、奥に入って行く。 …もう俺の意向は無視だな。 階段を昇ると、俺は風呂場に降ろされた。 「んじゃあここ使っていいから。着替えは俺の服だけどここに置いとくから。脱いだやつはここに入れといて」 「………」 「あ、もしかして1人で入れねぇ?一緒に入る?」 「ざけんな入れるに決まってんだろ」 「ははっ、だよな!じゃあちゃんと入れよ!」 山本武はそう言い残し、風呂場から出ていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |