大切なもの
可愛い。この単語が今の僕の思考を占めている。
僕の腕に女が擦り寄るほど、僕がにこりと微笑むほど、彼女は少し傷付いた様な顔をする。そしてその後決まって何故痛みが起こるのか不思議そうな表情をするのだ。
そのコロコロと変わる表情が僕にはひどく可愛らしく感じられた。
もしかして嫉妬してくれているのでは。そんな自惚れさえ生じる程、僕は彼女に惚れているようだ。
まあ彼女に惚れていると分かったのはつい最近なんだけどね。
アリシアの高飛車な態度に痺れを切らしたのか、彼女はスタスタと足早に部屋を出て行ってしまった。
少し意地悪しすぎちゃったかな。そう思い、彼女を連れ戻しに行こうと立ち上がろうとすれば隣にいたアリシアがきつく腕を絡めてきた。
「ん?どうしたの?」
「折角二人っきりになれたんだから、少しは構って欲しいわ。」
「ごめんごめん。でも僕、これから会議でね。」
「嘘。さっき確認したもの。ねぇ、最近の貴方は何か変よ?そんなにあのジャッポーネの子が好き?」
「うん、凄く大切な子なんだ。だから離してくれるね?」
「…気に食わないわ。もう、白蘭なんて知らないんだから!」
そう吐き捨て、キッと僕を睨んでから彼女は出て行った。
あーあ、あの様子だとかなり怒らせちゃったか。ユークのボスは面倒だからなぁ。
はぁ、と溜め息を零し名前チャンを捜すべく僕も部屋を後にした。
***
「はぁ…っ…どこにも、いない!」
彼女の行きそうな場所を全部チェックしたが、それでも彼女の姿は見当たらなかった。
心辺りが無い訳ではない。恐らく、いや絶対あの女が関与している。
何故だか妙に確信出来た。
しかしこのまま闇雲に探すのは無意味だと判断し、少しでも情報を掴むべく正チャンの元へと向かう。
「名前チャンに何かあったらあの女、絶対殺す…!」
一秒でも早く彼女の元へ。
目指す先は、
大切なもの
(今行くから、)
(待ってて名前チャン)
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