闇夜に浮かぶ桜吹雪 不器用な優しさ <千鶴視点> 行方知れずの父を探し京の都に来て二月(ふたつき)になる。 到着直後に浪人と奇妙な男たちに絡まれ、気がつけば都で恐れられている『新選組』の居候になってしまい、日々緊張の毎日だったのも今ではだいぶ馴れてきた。 出会いが斬りあいを目撃してしまい脅しの末、拘束、軟禁と尋常ではない出会いだったのでこれからどうなるのか不安だった。 しかし、それも今ではだいぶ緩和されている。 巷で噂されているような悪鬼集団ではないようなのだ。 楽しければ笑い、寂しければ拗ね、悲しければ泣く。 どこにでもいるような人たちだとこの二月で知った。 義理や人情に厚いようで、しかも世話好きだとも知ったのは男所帯に女一人は大変だろうと気にかけてくれたからだ。 血も涙もない人斬り集団だと聞いていた千鶴は、彼らの世話焼きに呆気にとられていた。 特に近藤や井上の二人は何かと世話してくれている。 よくつるんでいる原田、永倉、藤堂、斎藤といった若手も気にかけてくれていると何となく分かる。 沖田や山南はいまいち掴み所がなく苦手ではあるが、悪い人ではないと思う。 少なからず、みんなに好意を持つくらい親しくはなった。 ただ今気になるのは彼らではなく、自分同様浮いている人物だ。 名前からして外国人。 見た目は綺麗なのに、やたらとがさつで男前。 黒い髪は無造作にしているはずなのに、手入れしているかのようにさらさら。 顔を合わせた時、ちょっと女として自信を無くしそうになったくらいの美人……の男性だ。 どうやら、襲われていた所を助けてくれてここに連れてきた張本人らしい。気絶していたので人伝で聞いた話だ。 はぁ…と知らずため息がでる。 文句を言おうにも、さりげなく気を使われているのだ。皮肉に隠された優しさを見つけてしまっては、文句を言おうにも言えない。 またため息がこぼれる。 眼下には美味しそうなみたらし団子。 自分のおやつに買ってきたが、腹がいっぱいになったからと半ば押し付けられた代物だ。 腹がいっぱいになったと言うが、そのわりに彼から甘い香りは一切しなかった。 だからこれは自分のために買ってきたものなのだろう。 また一つ、不器用な優しさに触れてしまった。 だんだん外堀を埋められている気がしてならない。もう文句を言うのは諦めた方がいいか…と団子を見つめながら一人ごちた。 20120207 [*前へ] |