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闇夜に浮かぶ桜吹雪
はじまり


あの戦いから一年。
結界という安全と魔導器という生活の要を失いつつも、人々は徐々に前を見始めていた。
もちろん、説明もないままに魔導器を捨てざるを得なかったため国民たちは始めは反発や暴動が起こっていたが、新しく帝位に就いた皇帝の元、それも沈静化していった。
また結界が消滅したために、民家を襲う魔物の群れの対処にギルドと騎士団が協力体制をとることになった。




災厄の混乱から世界は平穏を取り戻しつつある。






※ ※




ユルゾレア大陸の森を走り抜けながら、襲ってくる魔物を切り捨てる。
雨足が強くなり走る度に足が滑り、上手く走れないことに舌打ちをした。


「ったく!ラピード!先に行ってジュディたちを呼んできてくれ!」
「バウ!!」


相棒の頼みに一声上げラピードはスピードを上げる。
さすが四本足で走るだけあり、ラピードの姿はあっという間に見えなくなった。


「ちっ!ゾロゾロ来んじゃねぇ!……蒼破っ!」


衝撃波を前方から来た魔物に当てる。
魔導器は使えなくなったが、今まで習得してきた技は本人に帰化されるため衝撃波は難なく魔物を吹き飛ばす。
ただし威力は劣るもので、致命傷まではいかなかったのか再び襲い来る敵を今度は直切り捨てた。


「お前らの巣を壊したわけじゃねえだろう!!ちったぁー諦めやがれ!!」




薄暗く視界の利かない森に魔物の悲鳴が木霊した。





―――――――――




今回の依頼は素材集めだった。
魔導器がなくなり魔物の驚異から身を守ることが難しくなった世界は、何をするにも不自由を強いられた。
エアルからマナへエネルギーを切り換える代替の魔導器の開発を急いでいるが、中々難しくあまり進んではいない。
そのため空を自由に飛び回れる『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』に依頼が寄越されたのだ。

基本的に単独行動のギルドであるが、その依頼が来たときはたまたま構成員全員揃っていたこともあり、今回は珍しく団体で行動で依頼をこなしていた。







広い森のなかを手分けして探しだし、やっとのことで手に入れた『鉱石』を手にしたまま次々と切り伏せ拓けた道を目指す。
『鉱石』を取り出した近くに魔物の巣があったため彼等を刺激してしまったのか、襲いかかってくる数は一向に減らない。
地上最強の黒獅子といえど群れて襲われては倒すのが難しかった。


「くそ……終ったら久しぶりに温泉だと喜んでたのによっ!!」


切り捨てた狼の姿をした魔物と猿がキノコの帽子を被っているかのような魔物の横をすり抜けると、目の前の樹が無くなっていることに気付く。
ユーリは口角を持ち上げると、一直線にそこを目指した。


しかしそこは切り立った崖。
下を覗きこめば川が流れているのが見えた。


「はっ……絶体絶命ってか?」


シャレにならねぇな。


ラピードの足ならジュディスたちの所についているだろう。
あと人踏ん張りだ。


「死にたいヤツは来な!」

背後には崖。目の前には数が増えた魔物の群れ。

ユーリは不敵に笑うと牙をむいた魔物に剣を突き立てた。





20110907

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あきゅろす。
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