夢の硝子玉 8 「ばっきゃろー! 死ぬつもりか!」 ナイフを手に二人の元に駆け寄ったラスターを、ダルシャの長い足が蹴りつける。 そのせいで態勢が崩れ、獣人の牙はダルシャの首筋に急接近した。 今にも牙が深く突き立てられそうなその状況に、セリナは両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。 「なぜ、剣を抜かない? 俺に噛み殺されるのが怖くないのか?」 獣人の声がダルシャの耳元に響く。 「怖いさ…それに、私はまだ死にたくはない…」 「ならば、なぜ!」 獣人は興奮したような口調でそういうと、ダルシャの胸倉をつかんで引き上げた。 「それは、君が武器を持っていないからだ。」 獣人はその言葉に失笑する。 「俺のこの爪や牙がなによりの武器だ。 ……さぁ、剣を抜け! 抵抗しない奴を殺すのは、私も後味が悪い。」 獣人はそう言い放つと、ダルシャから乱暴に手を離した。 ダルシャは、身体に着いた土埃を払いながらゆっくりと立ちあがる。 「さぁ、早くしろ!」 「……いやだ。」 「何だと?この期におよんで剣を抜きたくないというのか?」 「そうだ。」 「なぜだ? おまえは剣士ではないのか? なぜ、剣を抜かない?」 「私は、君と戦いに来たのではないからだ。」 獣人とダルシャの視線がぶつかる。 お互いは無言のまま、相手の瞳を食い入るようにみつめていた。 「……おかしな奴だ…」 獣人の視線が緩み、その顔には小さな笑みが浮かんだ。 「どういうわけでここへ来たのか、話を聞かせてもらおうか。」 獣人は、親指を立て小屋を指し示す。 「ありがとう。 私は…」 ダルシャは片手を差し出した。 「名前ならさっき聞いた。 ダルシャだろう? 俺は、カイン。」 カインは、差し出されたダルシャの片手をしっかりと握り締め、二人はにっこりと微笑みあった。 「さ、あんたらも入ってくれ。」 突然かけられた声に一瞬驚きながら、五人は促されるまま小屋の中に足を踏み入れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |