夢の硝子玉 27 * 「リュシー…心して聞いてくれ。 ……実は…私と父上は……おまえにずっと嘘を吐いていたのだ。」 「……嘘…?ですか……?」 アンドリューは、リュシーの瞳をじっと見据え、ゆっくりと頷く。 「……そうだ。 あの当時はそうするのが、おまえのためだと信じていた。 だが、おまえはその後も誰とも結婚することはなかった… それほど深く傷付いたのか、或いはまだあの男を想っているのか… いずれにせよ、私はおまえの人生を台無しにしてしまったような気がして…そのことがずっと心の中でひっかかっていたのだ。」 「お兄様…一体、何のことをおっしゃっているのですか?」 リュシーの表情からはすでに微笑みが消えていた。 「リュシー… あの時、私と父上はおまえに言った。 あの男は金を渡したら、おまえとの別れを簡単に承諾した。 そして、あの子は里子に出した…と…」 「お、お兄様…まさか……!」 「すまん、リュシー… あれはすべて嘘だったのだ。 あの男は、金を受け取らなかった。 金なんかいらない、リュシーと一緒にいさせてくれと泣きながら懇願した… もうしばらくしたら金を貯めてこんな場所を脱出し、おまえと子供にもっと良い暮らしをさせると約束した… だが、父上はそんな話には耳を貸さず、リュシーはもうおまえにも子供にも未練はないと言っている、やはりこんな貧乏は暮らしは真っ平だと自ら進んで家に帰ると言い出したと男に言った。 その言葉を聞いてあの男は、とても大きな衝撃を受けたようだった。 そして、あの男が追って来られぬようにと、わざわざおまえをフーリシアへ連れて行ったのだ。」 「な……なんて…なんて…こと……」 リュシーの唇は血の気を失い、わなわなと小刻みに震えていた。 「そ、それでは、お兄様! あの子は、私のぼうやはどうなったのです?」 アンドリューは俯き静かに首を振った。 「私にはなにもわからん… あの父子がその後どうなったのかも、あのスラム街の場所も……」 「そ…そんな… イリアス…ラスター……」 リュシーは愛しい夫と我が子の名を呼び、両手で顔を覆って泣き出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |