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夢の硝子玉
17
「そういえば、私、マクシムのことはまだ赤ん坊だった頃のことしか覚えていませんわ。
……それどころか、ここに来るまで、マクシムのことをすっかり忘れてました。」

「無理もない。
おまえは、マクシムとはずいぶん昔に一度か二度会ったことがあるだけだろう。
マクシムもおそらくおまえの顔は覚えておらんだろうな。」

「あらっ?うちに遊びに来たのも確かダルシャだけでしたね。
なぜ、マクシムは来なかったのかしら?」

「マクシムはダルシャとは6歳離れているからまだ幼かった。
しかも、マクシムは子供の頃は身体が弱かったから、遠出させたことは一度もないのだ。」

「そうだったんですか…」

二人の会話は夜が白み始める時間まで、途切れることがなかった。



「それにしても、お兄様は貫禄がお付きになりましたわね。」

リュシーはアンドリューの顔をみつめ微笑みながら呟いた。



「それは更けたということか?」

「いいえ、言葉の通りです。
……お父様によく似て来られましたわ。」

「そういうおまえも父上に似て来たよ。
うちの兄妹は皆どちらかというと父上似だな。
瞳の色も皆同じだものな。
……おまえと私がこうして話してる姿を見て、父上もきっと安心したことだろうな。」

そう言いながら、アンドリューは目を細め、どこか遠くをみつめる。



「ごめんなさい、お兄様。
私、あの頃はもう誰も信じられなくなっていて…
でも、久しぶりにダルシャに会って、とてもお兄様のことが懐かしくなって…
それに、私達ももう若くはありません。
いえ、若くとも、いつ、どんなことが起きるかわかりません。
姉様達のようなことだって…」

「あの状況ではそれも無理からぬことだ。
おまえが悪いのではない…
……実はな、リュシー……」

アンドリューは言いかけて、言葉の途中で戸惑うように口をつぐんだ。



「お兄様…?
どうかなさったのですか?」

「……実は、ずっと隠していたことがあったのだ。
あの時は言わない方がおまえのためだと信じていた。」

「お兄様、言いたくない事なら、言わなくても…」

「いや…言わなければならんのだ…」

アンドリューは真っ直ぐな瞳で、リュシーを見据えた。



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あきゅろす。
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