お題小説 13 「セリス〜〜!アニ〜〜!」 私は泣き声とも叫び声ともわからない声で二人の名を呼んだ。 「マクシム〜!」 会場の右隅から声がして、そこに手を振るセリスとアニー、そして両親の姿が見えた。 私は涙を流しながら4人の元へ走った。 こんな私を見て、きっと観客は思っていることだろう。 「マクシムは覇者になったことが嬉しくてたまらないのだ」と… しかし、そうではない… 私は、4人に駆け寄り皆をひとまとめに強く抱き締めた。 「あなた、表彰式が…」 舞台では司会の男が困ったような顔をして突っ立っていた。 「マクシム、行っといで」 「いやだ!私はここから離れない!」 私はまるで子供のようなことを言って、その場から離れなかった。 「では、みなさんでどうぞ、こちらへ!」 司会者が機転を聞かせてそんなことを言い出した。 私は妻と娘に両方から手を取られ、舞台へ戻った。 間近で両親と妻子に見守られながら、私の手にトロフィーが手渡された。 金色に輝く大きなトロフィーが… そう、あの時と同じあのトロフィーだ… その後、町のお偉方との会食が催されたが、私は具合が悪いと言い、両親や家族に付き添われて家へ戻った。 具合が悪いというのは口実ではなく本当のことだった。 これから起こることを考えると、気が気ではなかった。 しかし、そんな馬鹿げた話、いくら家族でも信じてはくれないだろう。 そう思うとどうしても話せなかった。 両親には無理を言って家に泊まってもらうことにした。 月の女神がどういう方法で家族を消し去ってしまうのかはわからないが、それだけはなんとしてでも阻止しなくてはならない。 私は両親の眠る部屋と、妻子の眠る部屋を何度も行き来しながら皆の無事を確認した。 真夜中となり、夜明けも間近だ… 何の確証もないのに、夜が明ければもう家族は安全なような気がした… もう大丈夫だ… 家族はいなくなりはしない… 静かな寝息を立てて眠る娘と妻の顔に安堵のため息が漏れた… 急に緊張の糸がほぐれたせいか、私は自分でも気付かない程の一瞬の間に眠りに落ちてしまった… !! 不意に目が覚め、私はすぐに部屋の中に誰もいない事に気が付いた。 心臓の鼓動が激しく脈打つ。 隣の部屋へ向かうと、そこにも両親の姿はなかった…… [*前へ][次へ#] [戻る] |