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お題小説
12
私達の異変に気付いた係員達は、相談の上、臨時の休憩時間を設けた。



「あなた、どうしたの?!
なんであんな手を…」

「パパ、おかしいわ!
なんだか全然やる気がないみたい。
どうしたの?何かあったの?」

「マクシム、何かあるなら話してちょうだい!
そういえば、さっきももう大会には出ないなんて言ってたけど…
何があったの?」

「パパ!やる気を出してよ!
頑張って、覇者になって!!」

「アニー、パパは覇者には…」

「マクシム…!
あなたまさかわざと負ける気なんじゃ…
まさか、負ける代わりにラザールからお金をもらう約束をしたんじゃないでしょうね!」

「ママ!なんてことを言うの!
パパはそんな人じゃないわっ!
パパは、今日だって必ず勝ってくれるわ!
シャトランの覇者になるわ。
ねぇ、パパ!そうよね?
私、信じてて良いよね…」

そう言って、真っ直ぐな瞳でアニーが私をみつめる…



あぁ…この瞳だ…
私の父親と同じ瞳…

ずるいことが嫌いで、澱む事を知らない清らかな瞳…

父親の瞳とアニーのこの瞳のおかげで、私は今までまっすぐに生きて来ることが出来たのだ。

この数年は、この瞳を見ないように避けてきた。
見る事が出来なかったのだ…
私には後ろめたい気持ちがありすぎて…



「マクシムさん、時間です!」



考えがまとまらないうちに休憩時間が終わってしまった。

家族のことはもちろん気掛かりだ。

だが、アニーの前でいいかげんな勝負は出来ない。

では、どうすれば…
一体、私はどうすれば良い…?

ラザールは、すっかり落ち着きを取り戻したようでなかなか良い手を打ち込んでくる。
これでこそ、ラザールだ。
これなら、私が手を抜かなくても自然と負けるかもしれない…

しかし、その時、不意に私の頭に思いがけない秘策が思い浮かんだ!



そうだ!この手なら…!



私の思い付いた手は、思った以上にうまくいった。
私の打つ手に焦ったラザールはまた落ち着きをなくし始めた。
自らのつまらないミスが重なる…



そして…

ついに、私はシャトラン10連覇の覇者となった。

私はつい競技に夢中になって、負けなければいけないことを忘れていたのだ。



なんてことを…!!




会場の妻と娘を探した。

すると、そこには…月の女神がいた…
にっこりと微笑む月の女神が…



『おめでとう…』

頭の中に声が響いた…
私は全身の血が凍りついたような気がした。



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