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お題小説

理性はそう言うのだが、感情はそれを否定しきれないでいた。

私はジャンについて小屋へ戻った。

ジャンの言ったことが嘘ではないという「証」を見るために。




「どうかしたの?何かあったの?」

私達はよほど深刻な顔をしていたのか、クロワは異変にすぐに気がついたようだった。

ジャンはクロワの問掛けに答えることなく、奥の部屋に入るとベッドの下にもぐりこんで何かを取り出した。
幾重にも布にくるまれ、紐で結ばれたものをジャンは丁寧に剥いでいく…



「まぁ!…それは…!!」


その中から現れたもの…
薄暗い部屋の中でほのかに光りを放っているそれは…紛れもなく夜光珠の杯だった…
その杯には、あの村に展示してあったものとは明らかに違う精巧な細工が刻みこまれていた。

これこそが、本物の夜光珠の杯…

ほこらから持ち出したものに死の制裁を与えるという伝説の杯…


「…お兄ちゃんはだめだっていったけど…
僕…どうしても母さんを助けたくて…
でも…この杯でお水を飲ませても…母さんは元気にならなかった…
そして…お兄ちゃんは……」

そこまで言うと、ジャンはまた泣き出してしまった…

私は困惑していた…
ただの伝説だと思っていた夜光珠の杯によって、亡くなった者がいたことを目のあたりにしてしまったのだから…

暗い夜道に走っていたのだ。
転ぶことは不思議ではない。
そして、転んだ先にたまたま固い石があっただけのこと。
不運が重なっただけのことなのだ。

…しかし、逆に考えれば、この夜光珠の杯に関わったことによって、不幸が重なってしまったのかもしれない…
そんな風に考えるのは迷信的な人達だけだと思っていた。
不幸なことがある度に、それをなにかのせいにする…
そんなことは愚かな人間の都合の良い考え方だと思っていたはずなのに、なぜ、私はこんなにも動揺しているのだろう?

記憶を失ってから性格が変わってしまったのか?
それとも、本来の私はこういう人間だったのか…

私は、心の中がざわめいているのを感じていた…



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