お題小説 8 「その通りです。 私が子供だったから、可哀想だと思ってくれたのかもしれません。 それに、月明かりでは私の顔もはっきりとはわからなかったらしく、村で偶然番人に出会った時も何もいわれませんでした。 もしも、私の素性がバレてその時のことを問いただされていたら…或いは私は本当のことを話していたかもしれませんが…」 そこで彼は一呼吸置き、しばらくしてまた話し始めた。 「私は彼が縛首にならなかったこと、番人が私の顔を覚えていなかったことでいささか安心しました。 いつの日か、彼に謝ろう…そんな甘いことを私は考えていました。 ところが、やはり天は許してはくれなかったのです。 それから少し経った頃、今までにない大雨が村を襲いました。 激しい雨は何日も降り続きました。 ようやく雨があがり家族で畑を見に行くと、畑はすべて水没し作物は全滅してしまいました。 もちろんうちの畑だけではありません。 どこもかしこも泥にまみれぐちゃぐちゃになっていたのです。 …私のせいだと思いました。 私が水晶玉を割ったから、こんなことに… 壊滅状態の畑を見ていると、私はいたたまれない気持ちになり、裏山に向かって走り出していました。 私がここで水晶玉を割ったせいで村がこんなことになったのだと思い、私はその場で声を上げて泣いていたのです。 しばらく泣き続け暗くなりかけた頃、突然大きな音と地面が揺れるような感触を感じました。 一体、何の音だったんだろう?…そんなことを考えながら家路に着くと、さらに恐ろしい光景が目に飛び込んできました。 あたりの景色が変わっていたのです。 鉄砲水でした。 多くの村人達が家もろとも一瞬で流されてしまったのです。 私は家族の名前を呼びつづけましたが、家族がみつかったのは数日経ってからのことでした。 彼らはもうこの世の人ではなかったのです…」 ケヴィンの瞳からは熱いものが流れ落ちていた。 彼はハンカチでその涙を拭い、さらに話を続けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |