お題小説
3
クロワは少年の涙を優しく拭いてやった。
「ねぇ、坊や…
あなた、名前はなんていうの?」
「……ジャン」
「そうなの…
お兄さんはどんな人だったのかな?優しい人だった?」
「…うん。すごく優しかった。」
「そうなの…
良いなぁ…私は兄弟いなかったから、うらやましいな…」
「お姉ちゃん、一人っ子なの?」
「そうよ。
…それにね…私が小さい時にお父さんやお母さんも死んじゃったの。」
「えっ!じゃあ、一人ぼっちなの?」
「いいえ。
それからは親切なおばあさんと暮らすことが出来たわ。
おばあさんが亡くなってからはまた一人ぼっちになったけど…
そしたら、今度はあのマルタンさんが来て下さったの…」
「へぇ…」
「神様はいつも見ていて下さってるのよ。
一人ぼっちが寂しくてくじけそうになっても、歯をくいしばって頑張ってたら、また誰かと出会えるようにして下さるのよ…
…ジャンは、今、一人ぼっちなの?」
「うぅん、母さんと二人ぼっち…」
「良かったわね、お母さんがいてくれて…」
「……でも…でも…一人ぼっちになるかもしれない…」
ジャンの瞳から、また大粒の涙がこぼれ始めた。
「どういうことなの?!」
ジャンから話を聞き、私達はすぐさま小屋を訪れた。
狭い部屋の中は薄暗く、ベッドには粗末な薄い毛布にくるまった女性が横たわっていた。
部屋にはなんともいえない嫌な臭いが漂っていた。
女性は痩せた身体をガタガタと震わせたり痙攣を起こしたりしている。
「マルタンさん!
水をたくさん汲んできて下さい。
ジャン、あなたは火を興して!」
そう指示を出す間にもクロワは女性の身体をてきぱきと調べていた。
私は桶を持って沢に水を汲みに行った。
小屋に戻ってくると、ランプが取り替えられ、小屋の中の様子がよくわかるようになっていた。
ベッドに横たわる女性の顔はまるで死人のような色をしており、手足は枯れ枝のように痩せこけていた。
まだ生きているのが不思議な位だ。
クロワはかいがいしく動き続けていたが、私にはさしあたり手伝うことはないと言われ、ジャンと2人で隣の部屋にいるように言われてしまった。
その部屋もベッドと小さなテーブルがあるだけの狭い部屋だった。
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