お題小説
1
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「イシドール、指の具合いはどうだ?」
「まぁまぁかな…」
「じゃ、そろそろ仕事場に出てみるか?
家にいるのも飽きただろう?」
「でも、おじさん…
俺の痣のこと…見られたんだろ…?
じゃあ、行っても無駄なんじゃ…」
「……親方に聞いてみな…」
(…そうか。
勝手に辞めたんじゃ、おじさんの顔が立たないよな…
親方に挨拶に行けってことなんだな。)
イシドールはその日、ゴーチェと港へ行った。
一週間ぶりのことだった。
「イシドール!もう良いのか?」
「あ…デニスさん。
この前は助けてくれてありがとう。」
「良いってことよ。
それにしても、おまえ、思いっきりやられてたな。」
「あぁ…情けない話だけど全く歯が立たなかったよ…」
「でも、まぁ、思ったより元気で安心したぜ。
まだ荷運びは大変だろうから船の掃除をやっときなよ。」
「あの…デニスさん…」
「なんだ?」
「……あの時、俺の背中の痣…見たんだろ?」
「あぁ、おまえ、すごいもん持ってんな!
あんなの初めて見たぜ。」
「初めて見たって……それだけかい?」
「なんだ?他に何かあるのか?」
「俺は……実は、呪われた一族の末裔で…」
「あぁ、その話ならゴーチェに聞いた。
だが、生憎と俺はそういう話は信じない性質でな。
それに…イシドール、忘れたのか?
この町は事情を抱えた者達が集まる町なんだ。
俺にだって事情はある。どんな事情かは言わないけどな。
だから、そんなこと気にする奴なんざいねぇ!
ここでは、おまえがどんな奴なのか…肝心なのはそれだけだ。」
「…デニスさん…ありがとう…!」
「礼なら俺じゃなくてゴーチェに言うことだな。
あいつは本当におまえのことを我が子のように思ってるんだな。
俺達にさんざんお前の昔話をしてくれたよ。
俺達は端からそんなこと気にしちゃいなかったのに、えらく一生懸命になってな…」
「おじさんが…?!」
「イシドールは俺の娘を命がけで助けてくれた恩人なんだ、本当に良い奴なんだってさんざん言ってたぜ。
…そういえば、ゴーチェにあんな可愛い娘がいるなんて知らなかったな。
おまえはあの娘と良い仲なのか?」
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