お題小説 6 私は、川に沿って先日泊まった町まで戻った。 遠い所でなくて本当に良かった。 おそらく、夕方までには戻れるだろう。 町の食料品店で様々な物を買い込んだ。 魚を売っている店もあったが、イシドールは魚が嫌いなようだった。 いや、「嫌い」というのとは違う。 どう言えば良いのかわからないが、何か特別の理由があって食べないのではないかという気がした。 店先でそんなことを考えていると、店の奥で食べていかないかと声をかけられた。 到底レストランとは呼べるような店ではなかったが、それらしきことをしているようだ。 朝から何も食べていないこともあって私は店内に入った。 狭い店内には客は1人きりだった。 髭を生やした年配の男だ。 「あんた、竜の滝を見に来たのかね?」 老人は私を見るなり声をかけてきた。 「いえ…私は、この先の大きな町に行こうと思いまして…」 「仕事かね?」 「まぁ、そのようなものです。 ところで、竜の滝とはどこにあるのですか?」 「この町沿いに大きな河があったじゃろ? あの河を遡っていけばすぐじゃ。」 「竜の滝という位ですから、何か竜にまつわる伝説でもあるのですか?」 「その通りじゃ。 竜の滝の滝壷には、昔、このあたりの守り神の竜が住んでおり、そのおかげで作物は豊富に実り人々は幸せに暮らしていたんじゃ。 ところが、ある時、ある男がその守り神である竜を殺してしまったんじゃ。」 「なぜ、そんなことを!?」 「町を守り、繁栄させてもらうため、竜には毎年生贄として若い娘を捧げていた。 その年は、男の一人娘が生贄になったからなんじゃ。 男は娘を捧げるのがいやさに、守り神である竜を殺したんじゃ!」 老人はまるで昨日のことのように熱を込めて語った。 「その後、竜の神の祟りによって滝壺の水嵩は増し、一晩にして川幅は何倍にもなり、田畑はすべて水没し多くの人々が亡くなった… それ以来、この町では作物はほとんど実らなくなってしまったんじゃ…」 「なるほど…そんな伝説が…」 「伝説なんかじゃありゃあせん! これは本当の話なんじゃ… その証拠に、今でも竜を殺した男の末裔がおるんじゃ。」 「まさか!」 「本当じゃ! 隣町の町はずれに一人で住んでおる。」 [*前へ][次へ#] [戻る] |