お題小説
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「お姉さん達、旅の人かい?
良いもんがあるよ!」
ある店の若い男が声をかけてきた。
「なんですか?」
「これなんだけど…」
「まぁ!これは…!」
男が取り出したのは、一枚の地図だった。
「どうだい?
かなり詳しく描かれてるだろう?
これさえありゃあ、たいがいの所へ行くのに困らないぜ!」
「本当だわ!
ねぇ!マルタンさん!
これは絶対に必要ですよね!」
「…そりゃあ、あれば便利かもしれませんが…
どうしても必要というわけでもないのではありませんか…?」
そもそもその地図が本物かどうかわからないではないか。
それに、こんな場所だ。
法外な値段をふっかけられることだってある。
あからさまに「欲しい」という意思表示をしてしまうと、足元を見られるのではないかと思ったのだ。
ところが、その地図は思いの外高くはなく、クロワも私の言う事など気にするそぶりもなく、あっさりと地図を購入してしまった。
私の気遣いを無にされたような気がして少し苦々しくは感じたが、考えてみれば、クロワが自分の金で何を買おうと私が口出しをする筋合いのものではない。
「良い買い物が出来ました。
本当に私達、ツイてますね!」
私の想いとは裏腹に、クロワはとても喜んでいた。
私達は宿に戻ると食事を採りながら、先程の地図を広げた。
「マルタンさん、これからどちらへ向かいましょう?」
「そうですねぇ…」
私は地図に目を落とした。
「こっちはいかがですか?
この町へ行くには山を越えて行かねばならないようですが、山には薬草がたくさんあるのではないでしょうか?
それとも、平坦な道を通ってこっちの町へ行ってみますか?」
「もちろん、山です!
ここで薬草を手に入れて、この町で薬を売れば良いお金になりそうですね。」
「でも、どの程度の山かわかりませんよ。
もしも迷ったりしたら…」
「大丈夫です。
ちゃんと準備さえしていけば、どうにかなりますよ。
もしも、上れない位高い山だったら…その時は引き返しましょう!」
そういってクロワはにっこりと笑った。
これが、本当にあのクロワなのか…?
いつもうつむき加減に暗い顔をしていたクロワと、今、ここで微笑んでいるクロワ…
(……どちらが本当の君なんだ……)
004 : 夜光珠の杯へ
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