天使からの贈り物
１８
「ここは……」
ジュリアンが目を開いた時、あたりの景色はほとんど変わっていないように見えた。
「ま、まさか…！
……ダメだったのか！？」
ジュリアンは、詰所に走りこんだ。
椅子に腰掛けて眠りこける男をジュリアンは激しく揺さぶる。
男の足元には数本の酒瓶が転がっていた。
「お、おいっ！
ディックは…ディックは無事なのか！？」
「は…？
な、な、なんだ？」
明らかに寝ぼけた様子の男の襟首から手を離し、ジュリアンは軽い舌打ちを残して奥の部屋へ走って行った。
「ディック！！間に合ったか！！」
留置場の奥に、膝を抱えてうずくまるディックの姿があった。
「あんたは、あの時の…」
薄暗い留置場の中でもディックはジュリアンの顔を確認したようで、そのまま少し驚いた様子でジュリアンを見上げていた。
「あ…！」
壁際に鍵をみつけたジュリアンは無造作にそれを取るとディックの檻を開け、その中に進入する。
「あ、あんた、一体、何を…」
中に入るやいなや、今度は檻の隙間から鍵を外へ放り投げた。
「何をするつもりだ！
僕を殺すつもりなのか？
殺りたけりゃあ殺るが良い！
どうせ僕は…」
ディックは言いかけた言葉を飲みこんだ。
「どうした、ディック。
『どうせ、死ぬつもりだった』とでも言うのか？」
ジュリアンのその言葉に、ディックは大きく目を見開く。
「どうやら、図星らしいな。
大方、そのベルトに首をかけて死のうとでも思ってたんだろ…」
「あ…あんた…なぜ、そのことを…」
「そんなことはどうでも良い！
だが、一つだけ言っとく。
おまえが死んでそれですべてが丸くおさまるなんて考えるなよ！」
「あんたに、何がわかる…！
僕だって、本当はあんなことしたくはなかった…
だけど、僕の想いは止められない…
だったら、僕さえこの世からいなくなれば…」
「馬鹿野郎！」
おまえがそんなことをしたら、スージーがどうなるかわからないのか！」
「スージーが…？
僕が死んだって、スージーはなんとも思いはしないさ。
これから、結婚して幸せになるんだから、僕がいなくなればせいせいするだけだろうさ。」
ジュリアンの大きな手が、ディックの頬を打ち乾いた大きな音が響く。
ディックは突然の出来事に、動きを止め呆然としていた。
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