3 (……ここは……) エリオットの目に映るのは果てしなく広がる花畑。 馴染みのある花、初めて目にする花、色とりどりの花達が、あたり一帯に秩序なく咲き乱れ、甘い香りが複雑に入り混じっていた。 エリオットは、立ち上がり遠くを見渡しながら現状について冷静に考える。 (僕はさっきまで山にいて… ……そう、あの場所から落ちたんだ。 下は小川の流れる沢だった。 こんな場所にこんな花畑があるはずがない。 ま…まさか、僕……) エリオットは、その小柄な身体を小さく震わせた。 一瞬の間を置いた後、エリオットはおもむろに自分の両腕を抱き締めるようにしっかりと掴み、次にその手を足の方へ移動させた。 その手の感触は確実なもので、自分が肉体として存在している事を感じさせる。 (僕…生きてるよね…?) 少し落ちつきを取り戻したエリオットは、足元の花を踏まないように気を付けながらゆっくりと歩き始めた。 エリオットがみつめる先には、人影はおろか民家も地平線すらも見えない。 ただ、ただ、鮮やかな絵の具を塗り散らかしたような花々が咲き乱れているだけ… どこか恐ろしさを感じさせる美しさだ。 そして、その光景は行けども行けども変わることがない。 それどころか、陽が沈む兆しさえなかった。 空はいつまでも明るい…だが、そこに太陽や雲は見えない。 そのことがエリオットをさらに不安な気持ちにさせた。 (やっぱり、僕は死んだの…?) 心細さに込み上げる涙を、エリオットはぐっとこらえて歩き続けた。 「誰か…誰か、いませんか…!」 心の中から突き上げて来るものを言葉に変えて、エリオットは涙声で叫んだ。 しかし、返事をする者はない。 「誰か…!! 誰か、いないの! いたら返事をして!!」 絶叫にも似たエリオットの言葉は、果てしない花畑に空しく響くだけだった… [前へ][次へ] [戻る] |