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ノイジィ・ヘイズィ
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千手兄は飛行機の時間などもあり、勝手によろしく頼んで、犬(仮)を置いてその場を去った。

第三者の立場で現状説明すると、残されたのは飼い主に捨て置かれたと勘違いをして遠吠えをする黒い大きな狼犬と、その場にしゃがみこむ精神薄弱なドッグトレーナーと、冷静な精神科医である。

また、主観で現状説明すると、残されたのは信頼していた者に一方的に縁を切られたと思い込み、絶望のあまり周囲に大声で呪詛を吐き散らす黒髪黒服の男と、もう何も見たくないし聞きたくもない状態の私と、公私において面倒事が増えて疲弊しきった千手先生である。

一番かわいそうなのはだれでしょう。


「千手先生…私はもうだめです…犬が人に視えるなんて…ほかの犬も人に視えるようになったら、この仕事を続けていく自信も、いや、仕事どころか社会に適合できる自信もありません…しかし一度受けたご依頼ですから…全うは、します…」

「…無理はしなくていい。これで病状が悪化してしまっては、元も子もない。」

「いえ、大丈夫…ではありませんが…でも…先生には、アレは犬に、視えるのでしょう?」

「………アレは、犬だ。遠吠えをしている」


<アレ>を見遣ると、調度通りがかった親子連れの子供が、

「わあ!おっきいいぬ!」

と指さしているところだった。
やはり、他の人には犬に視えるのか…
私には千手兄が車で走り去った方に向かって


「お前も!結局は俺を捨てるのか!柱間ァアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


と叫ぶ男しか見えない。
全うするなどと言ってはみたが、全うできる気、全然しない。
叫ぶ男の髪や尻尾が、動物が緊張した時のようにブワリと逆立った様子を見て、眼底が圧されたように痛み出す。


「………げぇっ」

「おい…」

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