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GEASS
ミルキーラインを駆け抜ける






「子供のお守りをしている暇はないんだ。とっとと帰れ」

C.C.に辛辣な罵詈雑言を浴びせかけられ、疲弊し切った僕も漸く解放された。

「次に来る時は手土産にピザの一つでも持ってくるんだな」

「……承知しました」

踏ん反り返りながらそう言う彼女は無類のピザ好きだ。
なるほどそれが今日の汚点だったという訳か。

「じゃあね、スザク。二度と来ないでね」

「はいはい」

笑顔のカレンに笑顔で返す。
C.C.にも挨拶しようとすると、彼女はいつの間にか僕の眼前に立っていて、耳元で小さく囁いた。

「お前のことを捜している奴がいるぞ」

「………確定情報?」

「違うな。女の勘だ」

一番当てにならないじゃないかと言うと、頭を一発叩かれた。






ゲットーの入り組んだ路地を、足早に駆け抜ける。
C.C.は「捜している」と言っていた。
つまり相手はまだ僕を「見つけていない」ということで、「追われている」訳でもないということだ。
そうと決まれば、こんな所からは早く抜け出すに限る。
名誉ブリタニア人の僕が、ゲットーに出入りしているところをもし軍やマスコミに知られたら、終わりだ。
また何も出来ないただのイレヴンに逆戻り。
それだけは阻止しなければ。
ずれたサングラスを上げ、歩くスピードを上げる。

「うるさいッ!!急いでいると言っているだろう!!??」

後方で大きな怒鳴り声が聞こえた。同時に、意思に反して止まってしまう足。
僕は……急いで……

「ふざけるなッ!!離せッ!!」

政庁に、戻らないと……

「だから………ほわぁあぁあぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!」

(クソッ!!)

思わず舌打ちを鳴らし、僕は声の方へと全力で走った。






本国にいた頃着ていた制服に身を包み、俺は政庁を後にした(何故か綺麗にクローゼットに入っていた理由は知らない)
シンジュクゲットーへの抜け道は既にリサーチ済みだ。
後はゲットー内で上手くスザクを見つけられればいいのだが………

「おい。お前、ブリタニア人だろ?」

肩をいきなり掴まれ後ろを向かされた。
目の前には見るからに柄の悪そうな日本人。

「あぁ。そうだ」

言いながら肩に置かれた手を払う。

「てめぇ……ココが何処だか分かんないっていう訳じゃないんだろ?」

目の前のリーダー格の男以外にも、建物の間から男が二人現れ気付けば男三人に囲まれていた。

「シンジュクゲットー。名誉ブリタニア人にもなれないイレヴンの居住地区だ」

「俺たちはイレブンじゃねぇ!!日本人だ!!」

思わず吐きたくなった溜息を何とか堪えた。
下らないプライドに邪魔をされ、取り戻すための手段すら使わないこんな奴らに用はない。
何と言われようと、自分の意思を貫く「日本人」を知っているから。

「………分かったよ、日本人。俺はただ人を捜しているだけだ」

だからそこを退けと目で訴えた。
男はふんっと鼻を鳴らし、俺を見下した。日本人の割りに無駄に背だけは高い奴だ。

「シンジュクゲットーで捜し人ねぇ……お前も訳有りか?」

男の手が顎に触れ、無理やり上向かされる。
人をただの学生だと思って嘗めてるな、こいつ。

「急いでいるんだ」

「連れねぇなぁ。ホントは迷子になっただけなんだろ?」

「よく見りゃ可愛い顔してんじゃん」

「ホント男かよ?目でかいし、色白いし」

男三人で寄ってたかって野郎の顔を舐める様に見るか、普通。
俺は気色悪いと思う前に、呆れ果てていた。

「なぁ、金ねぇし。ちょうどいいんじゃね?こいつで」

「だな。ブリタニア人のおぼっちゃまなら、」

「ちょうどいい憂さ晴らしにもなるって?お前そりゃヒデェだろ」

嫌らしい笑い声を上げる男たち。背中に悪寒が走った。
逃げなければと脳内が指令を出す前に、腕を掴まれてしまって動けない。

「お前も分かんない訳じゃないんだろ?大丈夫。そんな酷いことはしねぇって」

「うるさいッ!!急いでいると言っているだろう!!??」

俺が喚くと一瞬奴らも怯んだが、すぐに後ろから羽交い絞めにされてしまった。

「ふざけるなッ!!離せッ!!」

「お前、大人しくしねぇとココで犯すぞ?」

リーダー格の男が、鼻先でどすの効いた声で囁いた。
情けないが、ひいっと自分の喉の鳴る音が聞こえた。

「おいおい。んな目してこっち見んじゃねぇよ」

余計啼かせたくなる。
耳元でそっと囁かれたと思うと、

「だから………ほわぁあぁあぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!」

乱暴に引き剥がされた服のボタンの外れていく音が聞こえた。






一瞬のことだった。
男三人に囲まれた人の姿。
恐らく悲鳴を発したのはあの人だ。
僕は無我夢中でその男たちを薙ぎ倒した。
残ったのは、立っている僕と座り込んでいるその人、そして屍累々(もちろん殺しては無いけど)だった。
腰が抜けて立てないのか、悲鳴を上げたであろうその人は俯いたまま微動だにしない。
胸元を押さえているようだから、もしかしたら服が………
僕はサングラスを外して腰を屈め、優しい声と共に手を差し出した。

「もう大丈夫ですよ。お嬢さ………」

顔を上げたその人の顔を見て、僕の顔は青褪めた。

「ル…ルーシュ?」






一瞬のことだった。
突然現れた人物によって三人の男は一瞬にして薙ぎ倒された。
風の様に動くその人物が誰かなんて、分かりたくもなかった(あのサングラスは奴の趣味なのだろうか)
俺がココに来た目的そのものだからだ。
残ったのは、俯いて座り込んでいる俺、枢木スザク、そして屍累々(もちろん殺しては無いが)だった。
いくら相手が相手でも、顔を見られるのは恥ずかしい。
まさか「お前を捜しに来たら男に襲われました」なんて言えるはずもない。
俺は顔を伏せたまま様子を窺っていた。
すると枢木が手を差し出してきた。

「もう大丈夫ですよ。お嬢さ………」

お嬢さんだと?
俺は驚きで顔を上げてしまった。

「ル…ルーシュ?」

………しまった。
思った瞬間にはもう遅く、俺は青褪めた表情で立ち尽くす枢木スザクとばっちり目が合っていた。






まずい。非常にまずい。
僕は内心非常に焦っていた。
一番知られたくない人に、一番知られてはいけない秘密を見られてしまった。
そしてもう一つ、

「……そうか、お前の主は女だったのか」

人助けをしたというのに、何、この敗北感。
主は大変ご立腹だ。

「すみません……思わず」

「何が思わずだ。お前、もうちょっと言葉を選べ。あぁそりゃそうだよな。自分の主がまさか男に襲われてるなんて信じたくもないよな。悪かったな不甲斐ない主で。だが悪かったのは俺じゃない。ただ運が悪かっただけだ」

と、主はぶつぶつと文句を呟きながら、立ち上がった。

「あっ……」

「えっ……」

何故学ランを着ているのだろうとか、そういったことを気にする前に、僕の目に飛び込んできたのは、制服の前が全て露になってしまっている主の姿だった。
真っ白い陶磁のような肌とか、まぁ、所謂上半身が丸見えなわけだが………

「あっ、いやっ、これはっ!!」

慌てて胸元を押さえる主。
よく見ると辺りにボタンが飛び散っている。
なるほど。合点がいった。
しかし主のこのような艶かしい姿を、こんな下衆な男たちにも見られたのかと思うと腹立たしい。

「……はい、どうぞ」

着ていた薄手のコートを、後ろから羽織わせる。

「………、お前………」

「何か?」

「いや、なんでもない」

よく見ると主の頬が少し赤らんでいる。
こんなに可愛いから狙われるっていうのに、どうしてこうも無自覚なんだろう、この人は。

「うっ、うっ〜〜〜」

足元から急に呻き声が聞こえ、二人して肩を揺らす。
なんて回復力の早い奴らなんだ。

「行くよ、ルルーシュ!!」

僕は主の手を握り、一目散に駆け出した。

「えっ、あっ、ちょ、枢木!!」

「あいつら起きたら厄介でしょ!!手、離さないでねルルーシュ!!」

掴んだ手は、想像以上に細かった。
でも、しっかりと握り返してきてくれた。
そんなことが嬉しくて。
まるで、掌が心臓になったみたいにドキドキしていた。






Title by "9円ラフォーレ"

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