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GEASS
四葉になるのを待っている (スザルル)
例えば世界が平和なら。パラレルのようでそうでないようで。






携帯電話というのを、18歳にして初めて手に入れた。
近頃の子供は、もっと幼い内からこの文明の利器を手にするらしいが、いかんせん自分には事情と言うのも憚られるほどの理由がある。
だが今はまだ使っているというより、使われていると言った方が正解だ。
説明書を読むのが苦手な自分は、最低限の知識だけを付け焼刃で、幼馴染によって詰め込まされた。
だから多機能、高性能といくら謳われても、結局使用するのはメールと電話くらい。
元よりこれは仕事用で、ようやっと軍から支給された携帯電話だ。
そもそもの目的が普通の高校生とは違う。
僕はそんな利用回数の極端に少ない携帯電話をポケットから取り出し、アドレス帳に入っているとある名前へとメールを送った(ほとんど登録されてないから、探すのは簡単だ)

『今仕事終わったんだ。月がすっごい綺麗だよ。写メが使えるようになったから送るね』

パシャリというシャッター音が、夜道に響く。
さすがに冬だ。
空気が澄んで夜空も良く見えるが、何とは無しに寒い。
白い息を吸っては吐いて、彼からの返信を待つ。
自分はメールというものが苦手である。
そのことに気付いたのは、携帯電話を所持するようになってすぐのことだった。
あれを会話と呼ぶ者がいるのかと思うとぞっとする。
この一つの言葉を投げかけてから、返ってくるまでのタイムラグが妙に落ち着かない。
会話の基本は言葉のキャッチボールのはずだろう。返って来なければ、完全なる暴投ではないか。
しかも送る前に文面を考えすぎて、時間を食う。
そのうえ結局きちんとした文章にならないまま送ってしまうことが常だ。
そうなると綺麗に推敲された文が、彼から返ってくるのだが。
ブルルと携帯が震えた。
未だにこの振動にはなれずに、一々肩を揺らしてしまう。

『お疲れ様。良かったな。これで漸くお前も現代の若者だ』

絵文字も何もない、素っ気無い文章だが、彼らしくて僕はすごく好きだ。
そう思うのも束の間、僕はすぐに彼へと電話をかけた。
すぐに繋がる音が聞こえた。
僕は嬉しさが先走り、彼が何も告げる前に自分から話しかけていた。

「もしもし、ルルーシュ?」

『……お前は何故メールの後すぐに電話をかけてくるんだ……』

用があるならメールで充分だと、言外に含まれているがそこは気にしない。

「だって僕メール苦手だし」

『ふんっ』

鼻で笑う音まで綺麗に聞こえた。
悔しいけど、この近いようで遠いような、遠いようで近いような感覚は凄く好きだ。

「君の声が聞きたいんだって」

笑いながら言うと、

『ばーか』

彼の笑った声が、直接耳を擽る。
甘い安らかな時の流れ。

『お前、今帰りなのか?』

「うん、そうだけど」

『夕飯は?』

「食べたよ」

『………』

おかしいな。何かまずいことを言ったのだろうか。
突然黙ってしまった彼を、僕は待つことにした。
普通に喋っていても、突然自分の思考にのめり込んでしまう彼だ。
おそらく今も脳をフル回転させて、何か考えているに違いない。

『今夜はカレーだったんだ』

「………へ?」

思わぬ言葉に一瞬たじろぐ。
繋がりが分からない。
彼は時に僕以上に話を飛ばす。

『明日の朝ごはん用にと思って、多めに作り過ぎてしまったんだ。だがうちの兄弟三人では食べ切れそうもない。余らせても仕方がないだろう?』

これは……

「もしかしなくても誘ってる?」

『違う!!馬鹿なこと言っていると切るぞ!!!』

真っ赤な顔で受話器に向かって怒鳴っている彼の姿が容易に想像できて、なんとも可笑しい。
見えているわけではないのに。
僕は思わず笑い声を漏らしてしまった。

「アッハハごめんごめん。じゃあお言葉に甘えて、ご相伴にあずかろうかな」

『チッ……素直に最初からそう言えばいいんだ』

わざとらしく大きな舌打ちを響かせ、彼はそう呟いた。
素直じゃないのは、どっちだか……と言いたかったが止めた。
素直じゃない、意地っ張りで、プライドが高くて、頑固な彼が―――

「ねぇ、ルルーシュ」

『なんだ?』

「月、がすごい綺麗なんだ」

『あぁ、見えてるよ』

「ねぇ、ルルーシュ。僕さぁ……」

『うん』

「好きなんだと思う」

二人の間に漂う沈黙。

『………月が、か?』

「ううん。君が」

再び沈黙。
今の彼はおそらく、とても呆けた表情を晒していることだろう。
普通なら見せない素のままの彼。

「好きっていうより……愛してる?」

そう言った瞬間電話を切られた。
ツーツーという虚しい機械音が耳に残る。
僕は携帯電話を片手に、一回立ち止まった。
溢れ出した想いは、止まる事を知らないようで。
僕の制御を振り切って、口から飛び出してしまった。
……あぁこれだから体育会系は。
一人言ちるが、後悔はしていない。
タイミングとかムードとか、そういうのってあんまり関係ないと思う。あくまで僕の主観的な考えの一つなんだけど(でも僕の上司である副総督もこんな感じだ)
大きく伸びをした。
その瞬間、携帯がまた震え出したので僕は驚いて落としてしまうところだった。
届いたのは一通のメール。
差出人は彼。件名はなし。
怒って縁を切られるのか、それとも………
期待と不安両方を抱き、ゆっくりと中身を見た。
ずっと白い画面が続き、スクロールし続けると漸く短い文に辿り着いた。

『おれもすきだ』

何が、とか。何を、とか。
そんなことも書かずに。しかもひらがなで。
それでもこんなにあたたかい。

「もしもし、ルルーシュ?」

『ええい!!そうやってすぐに電話を寄こすな!!』

僕がすぐに電話を掛けると、案の定彼はすぐに出た。
きっとまだ顔は赤いままで、慌てふためていることだろう。

「もういっそ結婚しちゃおっか」

『黙れ!!!!!』

いくら叫んでもさ。
ほら、君の家まであともうちょっと。






そうだな。おかえりって笑って言ってもらって、そうしたらすぐに抱きしめてあげよう。






Title by "F'"

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あきゅろす。
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