GEASS かみさまの策略 本国からの緊急通信。 本当に緊急の用などほぼないがな。 一体今度は誰だ。俺は一抹の不安を抱きながら、モニターのスイッチをONにし、回線を繋いだ。 「はい」 「ルルーシュ殿下ッ!!!!」 画面に現れたのは橙色の瞳が印象的な、黙っていれば端正な顔立ちの男。 だが、今は俺の顔を見た瞬間に瞳に涙を溜め始めている。 「気持ち悪いぞ…いや、うるさいぞ。ジェレミア」 「お久しぶりです殿下!!お元気そうで何よりですッ!!!」 人の話など聞いちゃいない。 彼は興奮した面持ちで、どれだけ自分が俺のことを心配していたかを延々と語り始めた。 どうして俺の周りはこう、人の話を聞かない奴らばかりなんだ? 「エリア11などという危険な地域に行かれたというのに、殿下は文の1通も送って下さらない…このジェレミア・ゴッドバルド。いつも胸を痛めていました。もし殿下に万一のことがあったら、今は亡きマリアンヌ皇妃に申し訳がたちませんッ…!!」 コンコンとちょうどよくノックの音がした。 奴が俺の返事など待たずに、入ってくるだろうことを見越して、俺は黙ってモニターに映る不憫な男を見続けた。 …母さん、か。 「あぁあぁ。分かってる。俺は元気にやっている。以上。用件は済んだな。切るぞ」 「ちょ、ちょっとお待ち下さい!!殿下!!私の話を聞いて下さい!!」 「もう充分聞いてやったじゃないか。まだ何かあるのか?」 俺は他人からの無償の愛というものに、慣れていない。 それが自分の生い立ちに通ずるのか、もしくは生まれ持っての性格の歪みからかは判断しかねる。 皇族なんて身分の者たちは、所詮家族と言っても、血の繋がりなど関係無しに、皆が皇帝の地位を争ううえでの敵同士だ。 特にこの神聖ブリタニア帝国においては。 「近頃本国で妙な話を聞きまして…それが…殿下がイレヴンなんぞを騎士になさるという噂なのですが…」 ジェレミアは大変言い難そうに、言葉を紡いでいった。 言外にそんなはずはないと、自分の言葉に対しての否定の意が込められている。 「残念ながらジェレミア。その噂は本当だ」 ちなみにまだ叙任式が終わっていないから、正確な騎士ではないのだが。 「真ですかッ!?何故わざわざイレヴンなんてッ!!」 ジェレミアが取り乱すのも、仕方がない。 俺も元からこいつが、枢木を騎士として認めるなんて思っていない。 「テロ活動を続ける奴らにも、いい抑止力となるだろう」 「ですが…そんな不貞な輩を殿下のお傍に置いておくなど…」 ジェレミアはいい意味でも悪い意味でも、かなりの純血派だ。 差別は、受ける側の対処では何も変わらない。変わるべきは、差別を続ける側だ。 「ルルーシュ殿下は、不思議な方ですね」 つい先日のことだ。 執務室で俺の雑務に枢木を手伝わせていると、奴が急に口を開きこう言った。 騎士の仕事なんて、戦いの場でなければ、警護という名目のただの秘書だ。 「不思議?」 そんな言い方をされたのは初めてだ。喜んでいい意味なのか、皮肉なのかどちらか判断しかねたが。 「だってそうでしょう。わざわざイレヴンの自分を騎士にして。しかもここはエリア11ですよ。こんな書類見せちゃってもいいんですか?」 そう言って枢木は、俺の眼前に一枚の紙を突きつけた。 イレヴンのテロに対する制圧作戦の重要書類だ。 「あぁコレか。後でコーネリア総督に提出しなければな。すっかり忘れていた」 「…自分に見られてもいいんですか?」 枢木は信じられないものを見るような目で、こちらを見てきた。 確かに総督へ俺が直に提出しなければならない書類など、ほとんどない。 通常ならば、こういったものも騎士が渡しに行くものだ。通常ならばな。 だがコーネリア総督はナンバーズに対しての対応の厳しい方であるため、未だにイレヴンである枢木スザクを信用しきっていない。 そのためこういったイレヴン関係の書類は、頑なにこいつに近づけないようにしている。 「俺は、別にお前が見ようが見まいが気にはしないが?」 「自分が裏切って、イレヴンに情報を横長ししてるかもしれない可能性は?」 まぁ確かに。コーネリア総督が懸念してるのはそこだろうけどな。 「横流し、してるのか?」 「してませんよ」 「だろ?」 ならいいじゃないかと、俺は手元の資料に視線を戻した。 「そんなに簡単に人を信用するなんて…」 「馬鹿だとでも言いたげだな」 「いえ。羨ましいです」 それもそれで馬鹿にしてるのか褒めてるのか、微妙なラインだな。 「ユフィと同じですね」 ニコリと笑う枢木の顔には、少なからず陰りが見えた。 「いや、俺はユフィとは違う。ユフィは誰でもすぐに信用してしまうところがあるが、俺は一度懐に入れた奴に甘いだけだ」 「……」 「ユフィがお前を信用し、そして俺の友達にと薦めた」 「……」 「だから…俺の『友達』に、なってくれないか?」 甘い。どちらに?…どちらにも。 悪いがそんなことは自負している。 「騎士である前に…お前には、俺の…」 「…シスコンなのか?」 枢木が俺の言葉を遮った。 「〜〜〜うるさいッ!!!」 友達だからいいだろう?こんな軽口くらい。 そう言いながら、枢木は太陽のように笑った。 …ユフィや、ナナリーのようだった。 「お久しぶりですッ!!オレンジ卿!!」 画面に映るジェレミアの顔が、一瞬にして青から赤へと変わった。 「くぅるぅるぅぎぃぃぃぃぃ!!!!貴様未だその名を呼ぶかッ!!!??」 面白い男だ。見ていて飽きない。 俺は枢木の乱入を無視し、二人のやりとりを傍観していた。 「あれ?違いましたっけ?」 「何度言ったら分かる!!私の名はジェレミア・ゴットバルト!!!!その名は二度と口にするな!!イレブンの猿がッ!!」 「美味しいオレンジが収穫できたら、送って下さいね」 「人の話を聞けぇぇぇぇ!!!」 俺は笑いを噛み殺すのに必死だった。 ジェレミアをこちらに呼んで、枢木と二人で作戦に介入させてみたら、面白いかもしれない。 めちゃくちゃにしてくれそうだ。作戦全て。 「殿下ッ!?本当によろしいので!?」 ジェレミアは血圧が上がり、真っ赤になった顔を、俺に向けた。 「騎士はともかく、残念ながらこいつはもう俺の『友達』なんだ」 「ねっルルーシュ」 そう言いながら俺に顔を近づけてくる枢木を、手で押し返した。 「貴様不敬罪に当たるぞ!!ルルーシュ様とお呼びしろ!!」 …そっちか。顔が近いことに問題はないのか。 「まぁとりあえずそういうことだと、ユフィに伝えておいてくれ。ナナリーにもよろしくな」 「ちょっ、まっ…!!!」 何か言いたげなジェレミアを無視し、俺は回線を切った。 「お前も奴の傷口を抉るのは止めろ。奴のナンバーズ嫌い…いやイレヴン嫌いに拍車がかかるだろ」 ハァと溜め息を吐いて、横の癖っ毛を睨み付けた。 「いいじゃん。これであの人がエリア11に来る可能性が、また減った。安泰。安泰」 ニコヤかに言い捨てる枢木を見て、やはり食えない奴だと思った。 その後、俺がこの話を聞いたユフィから、ジェレミアを苛めるな、とのお叱りの電話をもらうのは…また別の話。 Title by "9円ラフォーレ" [*前へ][次へ#] [戻る] |