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GEASS
星空列車にとびのり乗車
この物語にはスザク受け的表現が含まれます。
苦手な方はご注意下さい。






俺の騎士、枢木スザク。
正直言って、俺はこいつが少し苦手だ。

「ルルーシュが人見知りなだけなんじゃない?」

受話器の向こうで本国にいる妹がそう言った。
俺は彼女の留学期間が終わり、本国である神聖ブリタニア帝国に戻ることになったため、ここエリア11に副総督として送り込まれた。
彼女は今他の兄姉達からみっちり、足りなかった分の政治の勉強をさせられているらしい。

「いや、違うんだ。ユフィ」

「あらやだ。もう嫌われちゃったの?」

呆れた声が耳に痛い。

「……いや、それとは、また話が…」

「やっぱりもう嫌われるようなことしちゃったのね!?ルルーシュ!!」

そんな大声で、これ見よがしに驚かなくてもいいだろう。
ユフィは俺に付け入る隙を一切与えず、一方的に捲くし立てた。

「もうダメじゃない仲良くしなくちゃ!!どんなひどいこと言ったの!?あぁもうスザクが可哀相!!私はナナリーになんて言ったらいいのかしら。あなたのお兄さんは育てられ方が間違ったんじゃないわ。育ち方を間違ったのよとでも…」

「あぁもう!!頼むから落ち着いてくれユフィ!!」

思い込んだら一直線なのは、彼女の長所でもあり欠点でもある。
だがなんだかんだ言ってそこも可愛いと思ってしまうから、俺はシスコンと言われるのか。
俺はユフィに悟られないように、大きな溜息を吐いた。
そもそも悪いのは俺ではない。
あいつだ。
全ての悪の根源はあいつ、枢木スザクだ。






「枢木スザク?」

エリア11に着いたその日、コーネリア総督から渡された最初の書類が、奴に関するものだった。

「お前の騎士に是非とユフィがな…」

コーネリアは眉間に皺を寄せながら、そう言った。
彼女は実の妹のユーフェミアに、ひどく弱い。
彼女の意見を尊重してやりたい気持ちと、反対する気持ちが拮抗している様だ。
それもそのはず…枢木スザクは…

「イレヴンを、俺の騎士に?」

「今は名誉ブリタニア人だがな」

イレヴン。
神聖ブリタニア帝国に戦争で敗れ、植民地化された日本、今で言うエリア11に住まう日本人の呼称だ。
確かに最愛の妹の頼みとはいえ、テロが頻繁に起こるエリア11で、イレヴンを騎士にするなど…不安要素の方が多いに決まっている。

「しかも『枢木』とは…まさか…」

「あぁ日本最後の首相、枢木ゲンブの息子だ」

そんな奴が何故ブリタニアの軍に?
俺の頭を真っ先に過ぎったのは、その疑問だった。

「ユフィは枢木と大変仲が良かったらしい」

「らしい?」

「聞いた話だ」

コーネリアは皇女であるにも拘らず、自らKMFに乗り込み、最前線で戦う人物だ。
このテロ活動が頻発する地では、流石に妹の私生活にまで干渉できなかったということか。

「ですが…何故?」

「ユフィが街に出た時に知り合ったらしく、それからよくユフィは彼の所属する特派にも顔を出していたらしい」

「特派とは、あのシュナイゼル殿下直属の?」

「あぁ。だからKMFのパイロットとしての腕も一流だ。私も何度か彼の手を借りることもあった」

「総督に実力を認められているなんて、相当な人物じゃないですか」

書類を見る限り、彼の身体的能力は常人を逸している。
それに思想的問題も無さそうだ。

「ただな…」

コーネリアは大きく溜息を吐いた。

「ユフィは何故彼を私に?私にはまだ騎士など必要ないと思うのですが」

まだ自分は副総督という身分であるし、どちらかというと頭脳を買われてここへ来た。
前線で戦うこともなく、おそらく一日の大半を政庁の執務室で過ごすような自分に騎士など無意味だろう。

「まさかユフィと彼に…何か…?」

「いや、ユフィはハキハキとした顔で、大切な友人だと言っていたよ」

可哀相に。
俺は少し枢木スザクに同情した。
皇族というのは、他人との交わりが極端に少ない。
話すのも、会うのも、ほとんどが家族か上司や部下ばかり…友達と呼べる人物などほとんどいない。
しかも女性の場合、自分の人生を政略結婚などに使われる場合の方が多い。
愛を育むよりも、友情を大切にしたいと考えるユフィの気持ちは、少し分かる。

「私も、お前には騎士などまだ早いと思うのだが、ユフィがな…『いきなり騎士と皇子じゃなくてもいいんです。ルルーシュのお友達にはスザクがぴったりなんです!!』と豪語したんだ」

『友達』か…
確かに俺に『友達』と呼べる様な人間はいない。
ユフィはきっと、最愛の妹ナナリーと離れ、一人エリア11へと赴任してきた俺に、少しでも心休まる場所をくれようとしたんだな。
自分がそうだった様に。

「『人に違いはあっても差はありません』」

「ん?なんだ急に?」

「ユフィの口癖です。私も、彼女の提案に乗ってみようかと思いまして」

まぁ、ほら、そこは、結局二人とも妹大事ってわけだ。






「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。これから、よろしく頼むぞ。枢木スザク」

「イエス・ユア・ハイネス」

くるくるの茶色い髪、イレヴン特有の目の大きい童顔、まさか同い年とは思わなかった。
だが中々に威勢も良さそうだ。
さすが、ここまで上り詰めてきた実力は確かなようだ。

「騎士叙任式はまだまだ先だ。俺の副総督としての就任も公式には発表していないしな。だから今はまだ騎士見習いとでも思って、そんなに畏まらないでくれ」

「はぁ…」

枢木はぽかんとした表情で俺を見つめた。
心なしか翡翠の瞳がきらきらと輝いているように見える。

「ん?なんだ?」

「あっ…いえ…」

「だからそんなに緊張しなくてもいいから。ユフィと同じだと思ってくれ。友達だったんだろ?彼女と。俺とも友達になってくれないか?」

机から立ち上がり、俺は枢木スザクに近付いた。

「いえ…ですが…」

何故こいつは口ごもり、目を逸らすんだ?
俺が枢木の肩に触れようとした瞬間、

「うわっ!!」

「えっ!!」

枢木が後ろに飛び退いた。
いや、それはもう野生動物並みの動きだったさ。
俺には完全にマネ出来ないね。

「ど、どうしたんだ…?枢木…?」

ポカンと間抜けな表情を晒してしまった俺とは裏腹に、枢木は肩で息をしつつ、呼吸を整えていた。

「し、失礼ですが、まさか殿下も…その…」

「ん?」

「私と寝たいんですか!!!???」

よく頭を思いっきり殴られると、目の前が真っ白になるというが…まさか自分がそんな目に合うとは思わなかった。いや、決して殴られた訳ではないのだが…

「何を…言っているんだ?お前は」

顔が引き攣っている感覚がする。平常心平常心。

「だ、だって…私のようなイレヴンをわざわざ騎士にだなんて…何か裏があると考えても…」

なるほど、こいつの『噂』、上官たちと寝てのし上がったというのはあながち嘘ではなさそうだな。
信じたくはなかったが。

「裏などない。ただユフィがお前を推薦してくれただけだ。お前は俺の騎士であり、友達。それだけだ」

そう吐き捨てると、枢木は若干落ち込んだ風に

「…なんだ。ちょっと期待してたのにな…」

と呟いた。

「ヤるか!!馬鹿が!!!」

その日のブリタニア政庁には、俺の怒号が響き渡ったという。







コンコンと控え目なノックの音がした。

「悪い。来客だ。切るぞ」

「んもう!!ルルーシュったらそうやってすぐにはぐらかす!!」

「またすぐに電話するから。ナナリーにもよろしく」

「ナナリーのお兄様は、エリア11でまず対人コミュニケーションの仕方から勉強していますって伝えておくわ」

「…ちょっと待てユフィ。そんな嫌味の言い方、一体誰から教わったんだ?」

「ルルーシュよ」

彼女のしてやったりな声音に、俺は肩を落とした。

「分かったよ…俺の負けだ。認めるよ。じゃあ…またな…ユフィ」

「ルルーシュも元気でやってね。お姉様にもよろしく」

「分かってる」

電話を切ったと同時に、今の会話の中心人物が入って来た。
噂をすれば…とは本当のことだな。

「まだ返事をしていない。入室する時はちゃんと返事を待ってから入れ」

「いいじゃない。どうせユフィからだろ。シスコンの兄を持つ妹は大変だなぁ」

随分とふてぶてしくなったもんだ。
書類を机に置いて、枢木はソファにどっかりと座った。

「おい、まさかお前俺以外の皇族の前でもそんな不敬な態度を…」

「まさか。ユフィにだってやらないさ」

なんだそれは俺が最低ラインか。ふざけるな。

「ねぇ、ルルーシュ知ってた?君今夜空いてるんだよ」

「それを報告するのが、お前の義務だろう」

だから今言ったじゃないかと、頬を膨らませても可愛くない。
他の奴には可愛く見えても、俺は一切絆されない。

「だからさ、ずっと部屋にいてね」

俺はユフィとの電話で、すっかり冷め切ってしまったコーヒーを口に含んだ。まずい。
奴の言っている意味が分からなかった為、小首を傾げて応答した。

「夜這いかけるから」

俺は勢いよくコーヒーを口から、噴き出してしまった。

「ゲホッゲホッ」

「あぁ!!もう何してるのさルルーシュ!!書類が汚れたら洒落になんないよ!!」

ソファから飛び降りて、枢木は急いでタオルで俺の周りと、身体を拭いてくれた。

「お、まえが…訳のわからないことを…言う…から…」

俺は息も絶え絶えに、枢木を睨みつけながら言った。

「だってルルーシュ全然僕に抱かれようとしてくれないじゃないか」

「なッ!!だッ!!」

俺は魚のように口をパクパクさせながら、赤面してしまった。
我ながら滑稽だとは思う。

「はははー初心だなぁルルーシュは」

「初心って言うな!!」

「それに君、僕のこと抱けないだろ?童貞だし」

「なっ!!お前はそうやって人のことをおちょくって!!」

「なんなら僕が筆おろしに付き合ってあげても…」

「大きなお世話だ!!」






俺の騎士、枢木スザク。
前言撤回!!
正直言って、俺はこいつがものすごい勢いでこの地球上の何よりも、苦手だ!!






Title by "9円ラフォーレ"

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