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GEASS
薔薇に魅入られた毒姫






目の焦点の合っていないスザクがシュナイゼルと共に病院に戻って来たのは、想像以上に早かった。

「ルルーシュの病室は何処かな?まだ顔を見ていないんだ」

そういつもの笑顔で言うシュナイゼルをセシルとコーネリアが病室へと案内した。

「貧乏くじぃ?恨むよセシルくん」

残されたロイドは一つ嘆息し、憔悴仕切っているスザクへと近寄った。

「何があったのって聞いてほしい?」

その言葉はロイドという人物が分かっている人間から見れば最上級の優しさだった。
スザクは目を丸くしながら俯いていた顔を上げ、ロイドをその視界に捉えた。
だがすぐにまた目を伏せ

「………いえ」

と静かに答えた。

「素直じゃないね君は。子供のくせに」

呆れた様に吐き捨てるロイドにスザクは苦笑する。

「子供でいられる時はもうとっくに終わってしまいましたから」

「……僕から見れば充分子供だよ」

ルルーシュもスザクも、どう見たって子供だ。背伸びをして大人の真似事をしているに過ぎない。
つまり子供にそんなことをさせている大人がいるということだ。

「甘えられる内は色んな人に甘えればいいのに。大人って、実は君達が思ってるよりよっぽど役に立つんだよ?」






シュナイゼル達が病室に入って数分後、遅れてロイドとスザクがやって来た。
ルルーシュの相変わらずの状態に、スザクは心が捻り潰されそうだった。
彼は許されたいと呟いた。その言葉はスザクがずっと胸に抱え、でも口に出せない言葉だった。
唇を噛み締めてから、スザクはそっとルルーシュの手に触れた。






ねぇ、母さん。
僕は頑張れてるかな?
ちゃんとナナリーの自慢のお兄様でいられてるかな?
よく頑張ったねって頭を撫でて欲しいんだ。最初で最後の我儘なんだ。
僕さ、もういいかな。もう疲れちゃったんだ。
今すべてを忘れていられるのがひどく幸せなんだ。
でもね、母さん。
なんだか手だけがとてもあたたかくて心が変に冷たいんだ。
なんだか大切なことを忘れている気がする。
そうだ。僕は……いや、違う。俺は、あいつの所へ帰らないと。
あいつはきっと、今も一人だ。






「…んっ……んぅ……」

スザクの手がルルーシュの手に触れた瞬間、ルルーシュの目蓋が微かに動き、微かに呻き声を上げた。

「ルルーシュッ!?」

不敬罪であることも忘れ、スザクは叫んでいた。握る手に力を込める。

「ルルーシュ…」

横で優しくシュナイゼルが彼の名を呼んだ。

「んっ……く、くるるぎ……?」

何日かぶりに見る紫の双眸にスザクはようやく安堵した。

「よかった……気が付いたんだね、ルルーシュ」

眉尻を下げ、スザクが微笑む。心からの笑みだった。

「枢木……俺は…?」

ゆっくりとこの状況を把握しようとルルーシュが口を開く。だがその目だけはスザクを捉え離さなかった。まるで彼だけが味方だとでもいうように。

「安心したよルルーシュ。でも焦らなくていい。まだ体力は万全ではないのだし。枢木くん、お医者様を呼んできてもらってもいいかな?」

二人の視線での会話を断ったのはシュナイゼルだった。

「……兄上?」

ルルーシュが目を丸くしてシュナイゼルに視線をやった瞬間に、スザクも立ち上がり病室の外へ出た。
安堵と不安と罪悪感に苛まれながら。






「いいのー?どうせならルルーシュ殿下の意識が戻るまでいればよかったのに」

ナイトメアの回線を開き、ジノはロロに呼びかけた。

「いいんです」

ヴィンセントの内部で、ロロはジノの顔の映る画面を睨みながらそう言った。

「頑なだなぁ。もう今更ロロのことブラコンとかって馬鹿にしないぞ私は」

「別にあなたのことなんてどうでもいいんです」

「あっ、そ」

画面の向こうで伸びをするジノを見てロロは嘆息する。
ロロの脳裏に浮かぶのはもちろん大切な兄。そして忌々しい彼の騎士の顔。

「……ヴァインベルグ卿」

「何だい?ロロくん」

「お伽噺の中でお姫様が目覚めるには、王子のキスという触発機構が必要ですよね」

「あぁ、うん。そうだけど」

「そういうことです」

一瞬ぽかんとした後、近親相姦はいけませんッ!!などと騒ぎ出したジノを、ロロは呆れた表情で見つめた。

(兄さんが意識を取り戻したのはあいつがいたからだ。悔しいけど、ムカつくけど、あいつが兄さんの王子なら……僕は……)

ロロは大きく肩で息をしてから通信を切った。






Title by "水性の魚"

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あきゅろす。
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