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GEASS
描かれた追憶






枢木の様子が目に見えて変わって来たのは、ジノと会った日からだと思う。
あの日を境に、枢木は俺に無闇に触れてこなくなった。
無駄口も叩かなくなった。
俺のことを「ルルーシュ」と呼ばなくなった。
顔も、姿も、声も、枢木なのに……なんでだろう。違う誰かを相手にしているようだった。






ジノが日本を発った日。
つまり枢木スザクが逃げる1週間前に、物語は遡る。

「ナナリーに会いたいな……」

思わず零れた本音に、「シスコン」と人を馬鹿にする奴も、「相変わらずだな」と笑ってくれる奴ももうココにはいなかった。
広いだけの静かな部屋。
この建物の向こうではイレヴンのテロ活動と、それを制圧しているブリタニア軍の攻防戦が繰り広げられているというのに。
世界から隔絶されている。
俺にはお似合いなのだろう。
もともと、ココに来たのだって―――

ピーピーピー

通信……だが、発信源がおかしい。EU基地から?
俺は警戒しながらも、受信ボタンを押した。

『うちの馬鹿隊長はそちらにお邪魔していないでしょうか?………って兄さんっ!!!???』

『ロロッ!!??』

音声と共に浮かび上がる映像。そこに現れた人物に俺は目を丸くした。

『あっ、まさか兄さんに繋がると思ってなくて……久しぶり。兄さん』

画面の向こうで慌てふためきながらも、しっかりと笑顔を作るロロを見て安心した。
「兄さん」と呼ぶが、ロロは俺の血の繋がった弟ではない。
事の発端は7年前に起こったとある事件。
俺やナナリーの母であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア皇妃が、アリエスの離宮でテロリストによって殺された(恐らく母の功績を妬む他の皇族の仕業だろう)
その時母の護衛をしていたのがロロの両親、ランペルージ夫妻だったのだ。
何発もの銃弾を浴び、母も彼らも帰らぬ人となってしまった。
夫妻は共に名をあげた軍人で、心優しい方たちだった。
俺やナナリーにもまるで自分の子の様に接してくれ、俺はその時にロロの存在を知ったのだ。
ナナリーと同い年の息子がいると、嬉しそうに語ってくれた。
俺たち兄妹は事件後、既に権力を保持していたシュナイゼル兄上の懇意から、何とかアッシュフォード家からの援助を受け続けることができ、皇族としての生活も許された。
今まで通りの生活とまではいかないまでも、足と目が不自由になったナナリーのための治療費や、世話役のメイドまで雇ってもらった。
まだまだ自分は子供であったし、我儘は言いたくなかった。
しかし心残りが一つあるとすれば、身寄りの無くなったロロのこと。
彼の幸せな生活を奪ったのは、間違いなく自分たちだ。
皇族である自分たち。
俺は事件から数日経ち段々と周りが落ち着いてきた頃に、シュナイゼル兄様にロロを引き取りたいと申し出た。
それを聞いた兄上はその秀麗な顔を少し歪め、考え込んだ。

―――今のアッシュフォード家の経済力では、君たち二人を皇族として一生養うことすらいっぱいいっぱいなんだ。知ってるね?

マリアンヌ皇妃が亡くなり、後ろ盾であったアッシュフォード家の貴族としての地位は格段に下がってしまった。
何より残された子供たちはあまりに幼すぎた。
何も考えられない、何も出来ないコドモではなかった。
しかしコドモに出来る範囲というのは、自分たちの力だけで生きるには狭すぎる。

―――私も今、資金を集めるのに必死なのだけれど……中々上手くいかなくてね。その上もう一人、人を増やすなんて。しかも彼は庶民の子だよね。

兄上はそう優しく諭してくれた。
最初から分かっていたことじゃないか。
物事を全て楽観的に考えられるほど、もうコドモではいられなかったから。
慈悲で生かされている分際で、自由など―――

―――そうだな……では、こうしよう。

何か閃いたらしく、兄上は優しく微笑んだ。

『兄さん?』

気付けば画面の向こうのロロが、心配そうに俺の顔を見つめていた。

「あっ……すまない。少し考え事を」

『いいよ。兄さんらしいや』

ニコリと微笑むロロの姿は、初めて出会った時とは全く違う。
あの時は両親を亡くした悲しみから塞ぎ込んでいたから。
心の底から笑えるようになった。
それだけで、大きな進歩だ。

「……で、馬鹿隊長とはジノのことか?」

『うん。エリア11に寄ってから向かうと言って、勝手に一人で先に出発したくせに、まだ到着してなくて。もう作戦行動が始まっちゃうっていうのに……』

ロロはナイトメアでの強さを見込まれ、ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグの直轄部隊に所属している。
その部隊の中でも最も強いロロが、ジノの右腕として活躍しているのだが、代わりに一番振り回されてしまっているらしい。
デコボココンビだが、年も近いし仲良くなれると思ったんだがな……

「ジノとは上手くやってるのか?」

『時間にルーズ。決まったことを守らない。すぐに単独行動する。そりゃ、実戦での腕は買うよ。でも兄さんが賞賛するほどの人物かな……』

(っていうかエリア11に行ったのって、どうせ兄さん目当てだろ。やっぱりあいつは野放しにしておけない)

「ん?何か言ったか?ロロ」

『ううん。何も言ってないよ』

「まぁ…ジノはそういう部分も含めて、お前を良い方向に変えてくれると俺は思ってるよ」

『そうかな?』

「そうだよ」

ジノなら大丈夫。
きっとロロの「友達」に……って、これではまるで、俺と―――

『そういえば兄さん。僕この前久しぶりにナナリーに会ったんだけど……』

「ナナリー?」

その名を聞いて、俺の思考は中断した。
ロロの元気が確認された今、残る心配は彼女だけだ。

『すっごい元気そうだったよ。普通に制服着て学校行って。足の治療も順調に進んでるらしくて、手術を重ねれば歩けるようになるかもしれないってお医者様に言われたって喜んでた。そのせいかすっごいリハビリ張り切っちゃって……』

呆れたように語られる言葉の一つ一つに、ナナリーへの愛情が感じられる。
良かった。ナナリーも元気だし、俺が心配する必要も無さそうだ。
二人とも、もう一人で大丈夫。

「ナナリーが歩けるようになったら、また昔みたいに三人で遊びに行こうな」

『ナナリーも同じこと言ってたよ』

本国にはユフィもいるし、ナナリーもきっと楽しく暮らしていることだろう。
俺だけだ。前に進めていないのは。

『……ねぇ、兄さん』

「何だい?ロロ」

尋ねると、ロロは少し俯き口を閉じた。
そう言えば先程までより、些か声のトーンが低かった気がする。

『………辛いなら、無理、しないで』

「え?」

『泣くことを忘れてしまう前に』






いつの間にか心配する側から、される側に変わっていたようだ。
俺はあの時のロロの言葉を思い出し、急いで私室へと向かった。
目立たない一般人が着るような服を選ばねば。






「あ〜はぁ〜、殿下ったらホントに行く気満々」

一般人には分からない数字の羅列が浮かぶパソコン画面を前に、ロイド・アスプルンドは勢いよく切られた携帯を眺めていた。
自分らしくなく、仕事の最中だというのに余計なことをしてしまったと思う。

「ロイドさん、何かあったんですか?」

横からファイルを抱える女性が現れた。

「あっ、セシルくん」

そう言って、ロイドは彼女の持っているものに食品が無いことに一人安堵した。
いや、彼女が運んでいる時点で、それは食べられる品ではないのかもしれないが。

「お電話中、だったんですか?」

ロイドの手に握られている携帯電話を見て、セシルはそう尋ねた。
言外に珍しいこともあるものだという意味が含まれている。

「うん。ルルーシュ殿下」

あっさり言ってしまうロイドに、セシルは頭を抱えた。
でも、もう慣れた。

「殿下と……あぁ。スザクくんとのことですか」

セシルの顔が華やいだのを見て、ロイドは少し顔を歪める。
どうしてあの二人の仲が良くなることを喜べるのだろう。

「まぁねー。殿下にスザクくんの居場所教えちゃった」

「居場所?」

「彼、今シンジュクゲットーにいるって」

セシルが声にならない叫びを上げる。

「何か問題?」

「大有りです!!!!」

でも人は、いつでも本当の自分を見て欲しいと願ってると思うんだよね。
そんなロイドの呟きは、セシルの怒鳴り声で掻き消された。






たとえそれがどんな自分でも。
相手に裏切られたとしても。






Title by "9円ラフォーレ"

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あきゅろす。
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