[携帯モード] [URL送信]

GEASS
レモンへかける誠実さ






『…俺だ』

その声だけで相手が分かってしまった自分が恨めしい。

「何故俺の携帯の番号を知っている?枢木スザク」

『……ゼロ・ランペルージが、勝手に送りつけて来たんだ。んで、俺に電話しろと』

話の整合性に欠けるが、どうやらゼロが余計なことをしてくれたらしい。
受話器に向けて、聞こえる様に舌打ちをした。
だが、相変わらずこの男は無反応のままだった。

「それで忠実に電話を寄こしたわけか。随分と上手く手名付けられたものじゃないか。なぁ?」

『…随分と饒舌だな…客と一緒ってわけじゃなさそうだな』

妙なところで鋭い奴だ。

「たった今帰ったところだ」

『フラれたのか?』

こいつは人の一番嫌がる部分を、直球で突いて来るのが趣味なのか?大層性格の悪い奴だ。

「そんなはずないだろうが!」

いけない。つい声に力が込もってしまった。

『ふーん…そういえばさっき暗い顔したヴァインベルグの坊っちゃんを見かけたな…』

含みのある言い方だった。だがそれよりも気になったのは《見かけた》という言葉。まさか近くにいるのか。

『……でもその言い方だと、やっぱりお前の方がフラれたみたいだな』

「………」

奴の声に、言葉に、人を見下す下卑た笑いが含まれているのが気に入らない。
どうして俺がこんな目に……!!

『慰めてやろうか?』

人を嘲笑ったような言い方。
そしてその瞬間聞こえてきた、静かなノックの音。

「まさか…ッ!?」

急いでバスローブを羽織って、ドアに走り寄り、その勢いのまま思わず扉を開けてしまった。

『慰めてやろうか?』

「……断るッ!!」

目の前には携帯片手の見慣れた茶髪。
俺は勢いよく扉を閉めた。

「どういうことだ!?ゼロ!!」

俺は直ぐ様ゼロに電話を掛けた。

『驚いたろ?』

開口一番怒鳴ったにも関わらずゼロの声音は飄々としていた。さすが兄弟。

「当たり前だ馬鹿ッ!!!」

『まぁいいじゃないか。たまには。じゃ、俺は忙しいから切るぞ』

「おいっ!?ちょっ…待っ…!!」

一方的に切られた電話から、耳障りな電子音だけが響く。
俺は仕方なく溜息をつき、閉じられたドアへと視線を戻した。

「おい、枢木スザク」





ドアの向こうから相変わらず不機嫌そうなルルーシュの声がした。
漸く人を中に入れる気になったらしい。さすがにホテルの廊下にずっと放置しておく訳にもいかなくなったか。

「………俺の質問に答えろ」

しかしドアが開く様子はない。俺は仕方なく座り込みドアに凭れた。

「どうしてココに来たんだ?」

俺の返事も聞かずルルーシュは尋ねた。もしかしたら俺はもうココにはいないかもしれないのに。いついなくなったっておかしくないのに。
……そうだ。考えてみれば俺にはココにいる理由なんて本当はないはずだ。
なのに、俺はココにいる。離れられない。

「……さっきも言ったろ?お前の片割れに頼まれたんだ」

「それだけでココまでわざわざ?そこにお前の意志はなかったのか?」

俺の意志。
確かに本来なら頼まれたからといってのこのこ現れたりはしない。無視すればいい。俺には責任など一切ないのだから。

『ルルーシュを迎えに行ってやってくれないか?多分一人で泣いてる』

ゼロから届いた1通のメール。そこに書いてあった電話番号。
ゼロの頼みを聞く義理も無いし、ルルーシュに優しくする必要もない。
では、何故俺はココにいる?俺がココにいる理由。俺がココを離れられない理由。
そんなの一つしかない。

「………」

「………お前がいるからだ」

「………」

「…お前だから来た。お前がそこにいるから、俺はココを離れられない。お前を一人で置いて行けないから、俺はココにいる。全て俺の意志だ」

ドアの向こうの音も廊下の音も全て消え、一瞬世界が無音になった。
俺は少しの間瞼を閉じた。胸の蟠りがすとんと落ちたせいか妙に落ち着く。

「入れ」

暫くして扉が開きバスローブ姿のルルーシュが現れた。
微かに声が掠れ、目尻が赤いのは仕事の後だからだろうか。
俺は素直に部屋の中に足を踏み入れ、後ろ手でドアを閉めた。オートロックの鍵が閉まる音がやけに生々しく響いた。

「シャワーはその横の戸だ。浴びたかったらご自由に。俺は寝る」

如何にも事務的な口調でルルーシュは言った。

「………おい」

待てと言う前に手がルルーシュの細い手首を掴んだ。細すぎて折れそうで、壊してしまいそうで、俺は慌てて手を離した。
だがこちらに向き直ったルルーシュの表情は不快や嫌悪というよりも、怒りそのものだった。

「……どうしてお前まで俺の手を離すんだ」

「………えっ?」

鋭さを増した紫に射ぬかれる。

「そうやってみんな俺から離れていく。簡単に手を離す……もう嫌なんだ。どうせ離される手なら、最初から繋ぎたくなどないんだ」

無くしたくないなら、離すな。確かにそれは道理だ。
しかし離れたくないのに離れなければならない時もある。大切な人なら特に。
でも一人を望む人間なんていない。一度知ってしまった温もりを忘れることなんて出来ないから。

「ルルーシュ」

「……人の名を気安く呼ぶな。一時限りの優しさなんていらないんだ」

「一時限りなんかじゃない。俺はお前の傍にいてやる」

もう一度ルルーシュの細い手首を掴み、引き寄せ抱きしめた。

「世界中の全ての人間を敵に回しても、お前の傍にいてやるから。お前がこの世界の何処にいたって必ず迎えに来てやるから」

だから自分が一人だなんて思うな。

「スザク」

小さく呟かれた名と共に、俺の背中に腕が回された。
もう一度強く抱きしめる。強くて弱い彼のことを。






その晩はルルーシュを抱きしめて眠った。
乱れたシーツからは香水の匂いがして不快だったが、ルルーシュの黒髪から香るシャンプーの香りが鼻孔を擽り、どこか心地好かった。

「ありがとう」

眠りに就く前、ルルーシュはおやすみではなくそう言った。
初めて聞く優しい声だった。
素直になれないその姿が、何だか彼らしくて笑ってしまった。
艶やかな黒髪を撫でる。俺も深い眠りに堕ちよう。






Title by "F'"

[*前へ][次へ#]

6/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!