短編
冬の日とリョーマくん
「ぶぇっくしょい!!!!」
「…色気のないくしゃみ」
「ズズ…、くしゃみに色気を求めるリョーマくんがおかしい」
季節は冬、彼女の名前と下校中、ふいに隣を歩いていた彼女が大きなくしゃみをした。…一応女子なんだから手くらい当ててほしいものだ。寒いからだろう、真っ赤になった鼻や頬を隠すように、マフラーに顔を埋め、俺より小さい背をさらに縮こませ、あー、とかうー、とか奇声を上げながら身震いする。
「……寒い?」
「…まあ。リョーマくん寒くないの?」
「そりゃ寒いけど、部活で寒い中テニスしてるし…慣れたっていうか…」
「そっかあ、…楽しい?テニス」
突然彼女がそんなことを聞いてきて、少し驚いた。
「うん」
「そりゃよかった」
「なんでいきなりそんなこと聞くの」
俺がそう言うと、名前は目をぱちくりさせてから、にんまり笑顔で言った。
「私、テニスしてるリョーマくん好きなの。どんなリョーマくんも大好きだけど、テニスしてる時が一番好き。とってもキラキラしてて、すっごく楽しそうで、見てるこっちまで楽しい気持ちになるから」
名前は、あまり自己主張のする奴ではなかった。良く言えば世渡り上手、悪く言えば八方美人。しかし優しい奴だった。けれどこの時は、俺の目を見つめながら真っ直ぐに自分の気持ちを告げた。
しかしよくもまあそんな恥ずかしい台詞をさらりと言えるものだ。不意打ちすぎて、体中の体温が上昇するのがわかる。赤くなってるであろう頬を隠す手間が省ける今日の寒さに少しだけ感謝した。
「……」
「…ぁ」
俺はさりげなく、空いている右手で名前の左手を握った。小さく声を漏らした彼女が、今どんな顔をしているかなんてすぐにわかった。
「りょ、リョーマ、く…」
「…こうすれば、少しはあったかいでしょ」
「…うん」
伝わる温もりに幸せだなと実感し、たまには寒いこんな日もありかなと思った。
とある冬の日、
(今だけ止まれ、君との冬)
寒くてマフラーに顔埋めるあれ可愛いよね。
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