短編
不二くんとオタクな彼女
僕の彼女は、いわゆるオタクという奴だ。普段は大人しいくせに、趣味の話になると何時間でもマシンガントークをし続ける。私物もそれ関連のものが多く、下敷きは上半身裸の男がドヤ顔でポーズを決めているもの、ケータイのストラップは露出度の高い女の子が魔法のステッキを持っているなにやらよくわからないものをつけている。少しは自重してほしい。ゲームのキャラ相手に『あああああ眩しい笑顔が眩しいよ結婚してええええなんでこんなに格好いいのおおお』なんて叫ばれたところで、僕には到底理解できないししたくもない。とゆうか、彼氏がいるのに存在しない異性にそこまで愛を注げるのもある意味すごい。
そんなある日。
「ふ、不二くんは、女装が似合いそうだね…」
「ぶっ」
二人で屋上でお昼を食べているといきなり名前が頬を赤く染めてそんなことを言うものだから、思わず飲んでいたお茶を吹いてしまった。ああもったいない。
「だ、大丈夫?!」
「げほ…っ、な、なんだいいきなり…」
「え、いや…、に、似合いそうだなあって。」
頬を紅潮させて上目遣いに呟く名前。その仕草は可愛いと思うがそこで照れる意味が分からないから、とりあえず曖昧に笑って見せた。そんな僕を見て、名前も笑う。うーん、素さえ出なければ普通に可愛いと思うんだけどなあ、この子。いやまあ僕の彼女なんだけどさ。
「それでね、こないだの休みはアニメショップでいっぱいグッズ買ったの〜」
「へえ、楽しかった?」
「うん!!」
口元を緩めて楽しそうに休日の出来事を話す名前。そういえば、僕たち付き合いだしてからデートとかしたっけ?テニスもあるしなかなか予定が合わないから、彼女と休日に遊んだことは一度もないことに、今更ながら気付いた。まあ名前はあまり気にしてないみたいだけど。
…日曜日、確かオフだっけ。
「…ねえ、名前」
「なに?」
「今度の日曜日さ、暇?」
「え、えと…うん…」
「なら、デートしよっか」
「!!」
僕の突然の提案に、名前は驚いたように目を見開く。
「デート!!?」
「そう、デート。嫌?」
「う、ううん、嫌じゃない!!行きたい行きたい!!わあ、楽しみ!!」
「…っ」
顔を綻ばせて嬉しそうに笑う名前に、不覚にもときめいてしまったことは、どうか黙っておこう。
名前は変だと思う。突然わけの分からないこと叫ぶし、かと思えば消沈的になって女装がどうとか語り出すし。数えだしたらキリがない。……でも、一番変なのは、そんな彼女を好きになってしまった僕なのだと思う。
そんなことを思ってはみるものの、週末のデート、誰より楽しみにしてるのは、悔しいがきっと名前よりも僕の方なのだろう。
オタクな彼女が書きたかっただけ。
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