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短編
幸村くんとぶつかる

「名字ー、これちょっと教室まで運んでくれ」


職員室に課題で出されたノートを届けにきた私を次の授業の担当教師が呼び止め、大量のプリントを指差しながら言った。ちょ、マジかよ。


「…先生、可愛い教え子をパシるのはよくないと思います!!」

「お前最近寝てばっかだろ、居眠りチャラにしてやるから頼んだぞ」

「………」





現金?
何とでも言うがいいさ。しかし多いな。大量のプリントを抱えた両腕が段々ダルくなってきた。慎重に運びながら私は教室を目指す。ちっ、あのハゲめ。女子生徒にこんなもん運ばせんなよ、だからいつまで経ってもハゲなんだよ毛根に見捨てられんだよ。

内心かなりの暴言を吐きながら、ちょうど曲がり角に差し掛かった所で、私は誰かにぶつかってしまった。


「わっ」

ばさばさと派手な音を立ててプリントが散らばる。あーやっちゃった。


「ごめん、大丈夫?」


聞こえた声に顔を上げれば、同じクラスの幸村精市くんが。どうやら私は彼とぶつかってしまったらしい。

「わ、わわ、ご、ごめんね、前ちゃんと見てなくて…」

「いや、俺もよそ見してたから」

苦笑いしながら、幸村くんは散らばるプリントを拾い集めてくれた。さすがイケメンはやることもイケメンだなあ、なんてことを考えながら、私もプリントを集める。


「はい」

「ありがとう」

「……」

「…?」

プリントを受け取った私を幸村くんがじぃーと見つめてる。え、な、なに?なにかした?え?わああ、い、イケメンですね…!


「…名字さん、教室までそれ一人で運ぶのかい?」

「あ、うん。さっき先生に頼まれちゃって」

「……」

「…幸村くん?」


しばらく黙り込んだ幸村くんは何を思ったのか、ひょいと私の手からプリントを取る。

「俺が運ぶよ、名字さん一人じゃキツいでしょ」

「ぅえぇ!!?い、いいよいいよ!!私が頼まれたんだし!!」

「どうせ教室行くんだし、俺が勝手にやってることだから気にしなくていいよ」

にこりと爽やかに笑って歩いていく幸村くん。ま、眩しい…!!笑顔が眩しいよ幸村くん…!!

「……っっ」


ま、待て待て待て。
運んでくれるのは確かに助かるが、私の代わりに幸村くんが運んだことが先生にバレたら居眠りチャラ計画がパーになってしまう。それだけは阻止しないと。

「ゆ、幸村くん!」

私は幸村くんの隣に駆け寄り、彼が持っているプリントを半分手に取る。

「え?」

「さすがに全部は悪いから、私も半分持つよ、手伝ってくれてありがとね」


精一杯の笑顔を見せて笑っておいた。そんな私を見て、幸村くんも小さく笑ってくれた。…きっと私が美少女だったら『幸村は頬を赤く染めて…』とか表記されてたんだろうな。とゆうか、学年一モテる幸村くんと凡人Aの私が仲良くなんてそれこそ夢みたいなことなんだけどさ。

まあ、いろんな意味で貴重な体験ができたから良しとしようか。



放課後
幸村(名字さん超可愛いんだけど正直押し倒したかったぶつかったときチャンスかなとか思った)
真田(とりあえず自重という言葉を知ろうな幸村)

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あきゅろす。
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