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短編
赤也くんにお願い

部活の帰り道。
俺は夕暮れの道を一人家へと向け歩いていた。



「すいませーん」

いきなりだった。その声は、完全な不意打ちだった。駅前商店街に続く、見通しの悪い坂道。下りて少し歩いたところにはちょうど公園がある。そんな坂道にさしかかったあたりで、唐突に背後からかけられた女の声。


「え?俺?」

「はい!」



そこにいたのは、制服姿の小柄な女だった。…この制服、見たことある。どこだっけ。そんなことを考えていると、そいつはおずおずと口を開く。



「あの、驚かないで聞いてくれます?えっと、私、今そこで死んじゃって。でも、どうしてもやらなくちゃいけないことがあって。それで、お願いしたいことがあるんですけど」


早口にまくし立て、困ったように苦笑いされた。



「………はい?」

「あ、ごめんなさい!私、早口でしたよね?ゆっくり言いますから」


いやそういう問題じゃなくてだな。


「私、今、そこで」

女はゆっくりゆっくり、間を置いて話す。


「死んじゃって」

「そこだよ」

「え?」

「おかしいだろ、そこが」

「どこが?」

「全部。大体、死んじゃってって、なんすか?俺は幽霊と話してるとでも?」


「はい!」

「………」


なんなんだ?こっちはハードな練習で疲れてるってのに、変な女に捕まってしまった。


「あ、待ってください!」


無視して歩きだそうとした俺の腕を、予想外に必死な様子で掴んで、女は俺にすがりついた。


「悪いけど、そういう悪ふざけに付き合うほど、俺ヒマじゃないから。他あたってください」


「悪ふざけじゃないんです!私真剣なんですよ!!あ、それテニスラケットでしょ!!テニス部なんですか?」



できる限り邪険にしてやったつもりなのに、女は引き下がらないし、俺の腕も放そうとしない。俺を逃がさまいとテニスのラケットに話を持ってった。まあ、ここで興味を持つ俺も俺だが。


「なに、アンタもテニスすんの?」

「ううん、友達にテニス部の子がいるの。それに、私テニスとか好きじゃないし」


アンタはやんねぇのかよ。しかも好きじゃないとかテニス部員前に普通言うだろうか。


「……なんすか?幽霊だとか、テニス好きじゃないとか、新手の嫌がらせっすか?」

「ごめんなさい」


低く抑えた俺の声に怒りを感じ取ったのか、女は視線を落として謝った。


「私も信じられないの。足もあるし、体だってあったかい。死にたてだからかなあ。でもね、ここから離れると、体が透けちゃうの」


わざとらしく明るく言いながら、最後は悲しそうに下り坂の先を見つめる。そして、思い出したかのように顔を上げる。



「そうだお願い!お願いがあるんだって!!これをね、ある人に届けてほしいの」


差し出されたそれは、一枚のCDだった。


「そんなの、自分で届ければ」

「だから、透けちゃうんだって」



ぶーと唇を尖らせ、眉を寄せ分かりやすく不服そうな顔をする。


「ね?お願い。もし君が坂を下った先の公園に私と同じ制服着た女の子がいたら、そしたら信じられるでしょ?あ、さっき言ったテニス部の子だよ!!」



先の見えない見通しの悪い下り坂を、女は俺と並んで見下ろした。



「実は私、その子とケンカしちゃってさ、これで仲直りしたいんだ。知ってる?この曲」


女が差し出したCDのジャケットには、見覚えがあった。




なんだっけ。
仲のいい二人が、些細なことでケンカして、けど最後には仲直りして、みたいな感じのありきたりな内容の落ち着いた曲。


「これね、私からの答えなんだ。最後に、この答えだけは渡したくて」



さいご、か。


「同じテニス部のよしみじゃないか、頼むよ少年」

意味わかんねぇ。つかコイツのキャラなんなの?明らかにキャラ定まってねぇじゃん迷子じゃん。俺は女の手からわざとちょっと乱暴にCDをひったくって、掲げて見せた。


「……投げるぞ?」

「あー!ごめんなさいー」


一応こちらにあわせて慌ててみせるものの、俺がCDを受け取ったことで、女はどこか嬉しそうだった。


「坂の下の公園に女がいたら、渡せばいいわけ?」


「あ、ねえ」



女に背を向けて歩き出そうとしたところで、呼び止められた。振り向くとやたら真面目な顔でこちらを見つめる彼女の姿。


「あのー、言いたいことは、思った時に言ったほうがいいですよ。ごめんなさいも。ありがとうも。いつでも言えるって思ってたら、言えなくなっちゃった、なーんてことがありますからね」



笑顔でそう言う女に、俺は何も言えなくなってしまい、前を見直して、なんとなく坂の向こうを見つめた。


「お願いしましたー」



最後にそう言った間延びした女の方を俺は振り返らなかった。


坂を下り始めると、少しずつ商店街の景色が見えてくる。商店街を少し歩き、目当ての公園が見えた時だった。


「あ」

公園のブランコに、テニスバッグを抱えたまま座る女の姿があった。あの女と同じ制服で、長い三つ編みを風に揺らしながら、どこか寂しげな顔をした女。俺は思わず振り返る。だが、あの見通しの悪い坂の上、あの変わった女の姿は、もう確認しようがない。


「……」




いろいろ思うところはあるが、とりあえず俺はあの変な女の願いを聞き届けることにした。


公園の女に向けて歩き出した俺の横を、一台の救急車が通り過ぎていった。







さいごのお願い








すいませんでしたなにこれ意味不明。
恋愛ものじゃないねこれ。
とあるゲームからいろいろお題やら拝借させていただきました。
ちなみに公園にいた女の子は桜乃ちゃんです(・∀・)

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