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リクエスト企画
 ー 01 ー 
ぼくのクラスには有名人がいる。

「じゃあ次、雅。42ページから」
「はい」

担任に朗読するよう言われ、有名人こと雅幸哉くんが席を立つ。

(綺麗だなあ…)

その様子をぼくこと町井直紀はうっとりとしながら眺めていた。

今年の春に副会長に選出され、彼の名前は一躍知れ渡った。それ以前にも噂が飛び交ったことはあったが、あのときはおまけのようなものだったから…。

(ぼくも雅くんみたいになりたいなあ…)

成績優秀、運動もできる。しかしなによりぼくが憧れたのは彼の顔立ちであった。
一見すると冷たい印象だが、それも雅くんの顔立ちが整っているゆえだ。
すらっと描かれた二重瞼に、高い鼻筋、薄い唇と細い顎で彩られた彼は男とは思えないほど綺麗であった。

ぼくも、あんな風になれたら…。

「絶対ムリ」

ぼくの妄想を、ぼくの部屋でくつろいでいた片柳が否定する。彼はぼくの幼なじみでありながら、ぼくとは違ってかっこよかった。
まあ、ぼくは普通ということで。

「なんだよ。そんなにべもなく否定しなくたっていいだろ」
「お前鏡見たか?どこに雅と似てる要素があるんだよ」
「それは…ないけど」

我が物顔でぼくのベッドでくつろぎ、雑誌を読む彼からその雑誌を取りあげてやりたい。
失礼すぎる彼とは幸か不幸か、同じ高校へ進学し今年はクラスまで同じであった。
いわゆる腐れ縁というやつだ。

「でも憧れるんだよなあ。綺麗で崇高な感じがして」
「だれとも話さねえからな」
「動作もなめらかでそつがないっていうか…」
「容姿のせいもあるんだろうけど、目を惹くしな」
「ぼくも彼みたいになりたいなあ…」
「つうかお前、雅のこと見すぎだろ」
「ふあ?」

ぼくはきょとんとし、カーペットのうえに直座りしたまま首を傾げる。
なんのことだかわからなかった。

「あんま雅のこと見てると会長に睨まれるぞ」
「会長って、嵩林くん?」

そういえばと思い、ぼくは以前廊下で見た光景を思いだす。
学内で一番人気といっていい嵩林くんから、話しかけられていたのだ。

「雅」
「嵩林…。どうした?」

雅くんはほとんど変わることのない表情にわずかな驚きを浮かべ足をとめていた。

「英語の辞書持ってるか?今日忘れちまって」
「…なんで俺に言うんだ?」
「お前が目の前を通りかかったから」

肩をすくめる嵩林くんに、雅くんはほっとしたように緊張をといた。
どうしてそんなに警戒しているのか不思議だった。

「で、持ってんのか?」
「持ってる。少し待ってろ」

教室へととってかえそうとする雅くんを、嵩林くんが呼びとめる。
雅くんはいぶかしげに振りかえった。

「なんだよ?」
「ごみ」

嵩林くんは雅くんのさらさらな髪に手を伸ばし、ごみを取ってみせる。

それを見ていただれもが、息をのんだと思う。
絵になっていたのだ。

「…口で言われれば自分で取った」
「まあいいだろ」

不快そうに踵を返し教室へ行った雅くんは気付かなかったようだが、ぼくは首を傾げた。

(髪にごみなんかついてた?)

距離はあったが、細く柔かな髪にごみがついていればわかっただろう。しかし彼の髪にそんなものは見受けられなかった。

雅くんを見送っていた嵩林くんが、ふいにこちらを向く。

――シィー。

唇のまえで指をたて、嵩林くんはぼくに黙っているように合図をしたのだ。


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あきゅろす。
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