Brother in law
18
秋羽は目安箱をひっくり返し、中身を机にぶちまけた。
(よくも飽きずに、こんなに書くよな…)
一枚一枚眼を通せば、すでに見慣れた内容が羅列している。
ここ一週間の変化といえば、曜介の弟である秋羽あてに、名指しで質問をする輩が増えたことだろう。
曜介の好みのタイプ、好きな洋服のブランド、当たり障りのない質問から、彼氏にしてや、押し倒されたいなど、一歩踏み入った内容のものまであった。
「秋羽、終わるか?」
まれにある生徒会への意見を除いて、曜介関連のくだらない質問をごみ箱に投げていると、南がイスをひいて隣に座ってきた。
「量はありますけど、ごみ箱に捨てるだけなんで終わります。南先輩は自分の仕事しててください」
「つれないなあ。もう少し、かわいい顔してくれてもいいじゃん?」
「俺、かわいくないんで。すみませんね」
いくら隣に座られようと、こちらに身体を向けて話されようと、軽い発言ばかりでは取り合おうという気持ちすら起きない。
そのうえ、昼間のことがあるから尚更だ。
(この人のせいで、兄さんから変に詰め寄られるし…)
曜介が彼氏といるところを見てしまった衝撃は、秋羽のなかでどうにか沈静しつつあった。あのあと曜介が教室に来ることもなかったので、頭のすみに追いやれたのだ。
それに、今さら曜介の恋人を見たところで、初めてのことじゃない。
(兄さんはモテるし、俺はただの弟だし)
目安箱の中身を見ていても、そのことをまざまざと思い知らされる。
秋羽の隣に居座る南に、黒渕から声が飛んだ。
「ちょっと、こら、南。仕事終わったの?まだ始まって一時間しか経ってないんだけど?」
生徒会長である黒渕は厳しかった。秋羽にも容赦ないが、それはほかの役員にも同じだ。
「やるって。少し秋羽と話してるだけじゃん」
「はは、仕事してないくせに態度悪いなあ」
「……笑顔が黒いぞ」
南が身体を引いて、思わずといった様子でつっこんでいる。
普段の言動が薄っぺらいだけに、若干、秋羽の影に隠れている南は、かわいいといえなくもない。
(いや、南先輩に可愛気があるんじゃなくて、黒渕先輩が恐いだけか)
さらさらと揺れる髪に見惚れていると、辛辣な言葉を吐かれる。黒渕はそういう男だった。
なぜ曜介と友達なのか腑に落ちなかったが、生徒会室に出入りするようになってからは、その理由がよくわかった。
顔が良いのは見たままだが、それだけじゃないのである。
「南が自分の席に戻って仕事をすれば、万事解決でしょ。まだ半分も終わってないんじゃない?この量からして」
「星草っ!勝手にいじんな!」
会計席の隣である星草が、手を伸ばして南の机に積まれている書類をめくっていた。書類の位置には意味があるようで、南が慌てて席に戻る。
そんな南を見上げ、星草が秋羽に肩をすくめてみせた。
(わざとやってくれたのか…)
意外な気持ちで、秋羽は頭をさげて返した。
星草から初めて優しくされたようだ。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!