Brother in law 19 星草の行動には、黒渕も瞳をわずかに見張った。 「めずらし。星草がだれかの肩を持つなんて」 星草は息を吐いた。 「だって同情するよ。秋羽、昼間に南から纏わり付かれてたんでしょ?恋人同士みたいで、外野が入り込めないくらい親密な空気を出してたって噂が回ってきたじゃん?」 「は!?」 「あ、星草もその噂聞いたのか。たまにはまともな噂を流す奴もいたもんだよな」 「南先輩!なにふざけたこと言ってんですか!」 初耳だった。当事者だから周囲が遠巻きにしていたのだろうか。 「秋羽くんが知らないのは、ムリないよ」 黒渕は不満そうに南を睨みつつ、種明かしをする。 「きみらがくっついてた場所、二年の教室のまえでしょ?一年生まで噂が届かなくても、二年には周知の事実」 「南は確信犯なんじゃない?これに懲りたら、迂闊に南を近付けさせないことだね」 星草にまで言われ、信じられない気持ちで南を見る。 すると、彼お得意のウインクをされた。 「まずは周りから取り込まないと…ね?」 がっくりと肩から力が抜ける。そういえば、やけに身体をくっ付けてくると思ったのだ。 「詐欺だ…」 一年は知らなくとも二年に噂が回っているのであれば、明日には全校に広まってるんじゃないだろうか。 (というか…二年が知ってるってことは、兄さんの耳にも…) 曜介はあの現場に居合わせたのだ。あのあと噂を聞いたのなら、どう思っただろう。 (まさか…噂を信じてたり) 秋羽が男と付き合える人間だと認識を改めたのか。 曜介は南に近付くなと言っていた。親密な間柄だと思われたら、曜介から見放されてしまうのだろうか。 (でもっ…兄さんだって男の先輩と付き合ってるんだし…) 秋羽のことを批難できないはずだ。 そう思うのに、不安の渦が巻く。 そのとき、高い音が鳴って、秋羽は身体をびくつかせた。 「仕事が終わったから帰る」 見れば、金丸がかばんを手に立ち上がっていた。先程の音は、イスを引いた音だったようだ。 淡々と告げる金丸に、黒渕は笑顔を浮かべる。 「金丸は無駄口たたかないから、仕事が早いねえ。お疲れ様」 秋羽は胸を撫でおろし、座り直す。考えにとらわれていては、黒渕から叱責が飛んでもおかしくない。 曜介のことを考えてる場合じゃない。 作業を再開した秋羽だったが、扉を開いた金丸から呼ばれ、また手を止めることになった。 「秋羽」 「…へっ?は、はいっ…」 急いで立ち上がる。金丸に話しかけられたのも初めてなら、名前を呼ばれたのも初めてだった。 何事かと秋羽は駆け寄ろうとする。 そんな秋羽を振り返り、金丸は少し身体をずらした。 「客だ」 秋羽は息を飲む。 生徒会室に、おかしな間ができた。 「兄さん…」 思い浮かべていた曜介がそこにいて、駆け寄ることもできず、足が止まってしまう。 曜介は生徒会役員の視線などものともせず室内に踏み入ると、机に置きっぱなしになっていた秋羽のかばんを掴んだ。 「秋羽、帰るぞ」 「えっ…、なに…、兄さん…!?」 いきなりで反応できずにいる秋羽を差し置いて、曜介は黒渕に顔を向ける。 「廉、いいだろ?」 「まだ仕事中なんだけどなあ」 黒渕の口許が不自然に上がっていたが、それに気を止めるような細やかな神経を曜介は持ち合わせていなかった。 秋羽のかばんをかっさらい、そのまま生徒会室を出ていってしまう。 「ちょっとっ…兄さんっ…!?」 秋羽も慌ててあとを追う。生徒会室を出る間際、黒渕に頭をさげるのが精一杯だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |