[通常モード] [URL送信]

「この空の下で」
夢と現実
新宿で仕事を終えて、家に帰るのはいつも夜9時くらいだ。

部屋に鍵をかけて出掛ける必要がない。何故かって...

家のドアを開ける。

「おかえり〜!」

ここでの、おかえり、という言葉の意味は、「ごはん」に直訳できる。


ヒデに二万ほど渡して、自炊関係の一式揃えてくれと頼んで、炊飯ジャーやフライパンなど、今まで縁のなかったものが台所に列べられた。


米が、もう炊かれている。食べ盛りな居候二人は、毎食五合の米を食べきってしまう。


チャーリーとヒデの二人は毎日ニンテンドー64のマリオカートに明け暮れている。ホントはスーファミのマリオカートの方が面白いけどなかなか見つからない。


最近、よくため息が出るな..


肉、買ってきたから、焼いて〜!

「ひゃっほう!」

楽しい生活だが、金銭的に少し辛くなってきた。


今月は、明日からは節約だからな..



少し一人になりたくて羽根木公園に散歩に行った。

ユミに電話する


「うぃ?」

ユ、ユミ〜...

「どしたん!?」

今までの、居候を養うに至る過程を説明した

「はぁ..バッカだね〜..お人よしなんだから。とにかく働かせて、家賃くらい出させな?」

はい..

「ふ〜ん..でもそれで自炊始めたんだ。じゃあ今度あーしがご飯作ってあげるよ」

あ、ありがとう...!



彼女って、素晴らしい..


「じゃあまぁ頑張って!元気だしなね?」


うん、うん..じゃあ、また、うん、日曜、スタジオでね!

「グンナイ♪」

おやすみ..


ユミの口癖、になるんだろうか、グンナイ、というのが好きだ。

子供の頃は割と聞いたけど、最近言う人はあまりいないのではないか。


ベンチに腰掛けて、煙草を吸う。ジョギングやウォーキングをする老若男女がちらほらといる。

この公園は一周600mほどで、そういう事をするのにはちょうどいいんだろう。




実家を出て、もう二年半が過ぎた。何か、変われたろうか、目標に、近づけているんだろうか?



音楽で食っていきたい、という事を、夢、という表現はしたくない。

あくまで、現実的な目標なわけで、

夢というのはもっと実現可能率が低くて、でも華やかでわくわくする、

想像はするけど実行には移さない類の消極的な願望、だと思う。


あなたの夢は?と聞かれたら、お笑い芸人や小説家、俳優等と答える。

子供の頃ドリフが大好きで、ホントにシムラケンのようになりたいと思っていたし、ホシシンイチのショートショートを演劇でやりたいとかも思っていた。


けど、そういう気持ちは全て中学で失ってしまった。


「死ね」


たまに声に出してしまう、嫌な癖だ。誰に対しての言葉なのかは自分でもよくわからない。


腐っていた自分を救ってくれた、今は音楽しかない。音楽に生きたい。

ただ、たまに思うのは、そういう暗い過去のある地元から逃げ出したかっただけなのではないか、と思うと何か基本的な自分の理由みたいなものが揺らいで少し不安になる。


考えたって、しょうがない。

今、こうしているんだし、きっと誰だって、何が正しいのかなんてわかんない。

それに、明日車にはねられて死んじゃうかもしれないんだ。先の事なんて、何にも見えない。生きてるって、スバラシイぜ!ちっきしょう..!



ユミと出会えた携帯のバンドメンバー募集サイトにまた書き込みをしてみた。

もっと、色々な音楽やってる奴らと知り合って、セッションして、酒を飲んだり語ったりしながら、なんていうか、自分を磨きたい。

音楽的な能力を高めたいし、もっと社交的な性格にならなければいけないと思う。

どんな奴でも、かかってこいってんだ..少し、ユミに影響されすぎかな。





―その頃 狛江 カツマ―



アパートで、大声で歌の練習をしていたら、大家から、二階に住んでる奴がノイローゼになったらしいから控えてくれ、だってさ。

失礼な話だぜ!未来の、ロックスターの歌声をタダ聞きしといて、ノイローゼかよ!

そんなに、ダメなのかな、俺の歌は..ベースって、いまいち地味なんだよな..クソ...

やりてぇ...もうなんでもいいから、やりてぇ...セックスが、してぇ..







[次へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!