「この空の下で」 突然の鳴咽 音楽理論とは一体何なのか。 言葉だけ聞いたら、なんだかもの凄く面倒くさく、かつ、うさんくさいもののように感じる。 理論、て聞いたら、これはこうである、とか、そうしなければならない、みたいに堅苦しい感じがする。 音楽ってもっと、自由なもんなんじゃないの!?感情の、自由な叫びなんじゃないの!?と言いたくなるが、今の自分が辿りついた解釈では理論=感性だ、と思う。 相反する物のような気もするが、そもそも、「音楽理論」ていう言い方が間違っているから気持ち的に敬遠されるし嫌な物と勘違いされるんではないか。 音楽言語、とか音楽表現、にしたらもっと理解者が増えるかもしれない。要は言葉なんだ。もし、この世界から言葉が無くなったら、どれだけ不便になるだろう。想像もつかない。 寒い、と感じた時、「寒い」 という「言葉」が あるから容易に自分以外の人間に自分の感情や状態を伝える事ができる。 もちろん住んでいる土地の気候や風習で多少の価値観の差こそあれ、人間としての感情や感覚というのはある程度人類共通のものではないのか。笑ったり、泣いたりする事というのは。 そういう気持ちを、他者に伝えたいという本能的な欲求から、言葉というのは発生したんじゃないかと思う。 伝えたいから。 生きているから。 なにかを感じ、想い、 大切な人と共有したい から。 言葉が必要だったんだ。 身振り手振りで、ウホウホ言っていてはラチがあかない。 他者と何かを共有するためには、自分を表現しなくてはいけない。意図を伝えなくては難しい。こうしたい、こうしようという言葉があれば、物事はスムーズに進む。 まぁ、言葉のせいで争いが絶えないというのもあるだろうけどそれもまた本能だと思う。 より感覚的に音楽を表現したいのならば理論を勉強して損ではない。 楽譜が音楽という料理のレシピならば、理論を覚えるというのは調味料の味と名前を覚えるという事に近い。 理論を知るという事は、想像を絶する広さの音楽という名の世界を旅するにあたって、地図と翻訳機を手にするようなものだ。見知らぬ土地で初めて会う人間とも、音楽という言葉で語りあえるだろう。 うひ..ひひ。 慣性で音楽をやっている理論否定派の連中を言い負かしてやりたくて考え事をしてたらちょっと危ない人寄りな感じになってしまった。煙草..と思ったら携帯が鳴る。 [着信 ユミ 090****-] もしもし? 「.....」 もしもし?どうしたの? 「...っ...ひっ.....ザドジ..」 え!?ちょ、泣いてるの!?どうしたの!? 「がれしど..わがれた...」 びっくりした..そんな事か.. あきらかに、苦労人とか不幸体質な人というのはいる。 不幸体質な人は絶えず何かの出来事がおとずれる。 何かが片付いたら、また次の問題発生、その次の問題への伏線もはりつつ。 失礼だけどユミさんはどちらかと言えばそういうタイプに見えた。だから、あぁいう歌が歌えるのだろうし、泣きながら電話がきたりした日には何があったかと思ったが.. 彼氏と別れた、たしか二人いたって聞いてたから、それでちょうどいいんじゃないのか? 何て言ったらいいかわからない。そもそも、それで何で自分に電話がきたのか。 「ごめん....」 いや、全然いいけど、大丈夫..? 「うん....」 え〜と..どうしたの?何で俺に電話.. 「誰かの声が聞きたくなるじゃん..!..こういう時って...」 残ってる彼氏の声聞いたらいいと思うけどな..こんな事は言えない。どうしよう。 ユミさん、もう時間遅いし、今一人でしょ?早く、もう一人の彼氏の家帰ったほうがいいんじゃない..? 「....!」 いっそう激しく泣きだしてしまった..俺そんな悪い事、言ったか..? 「いいがげん....」 え? 「いい加減、さんづけやめろよ....」 え.. 「あーしは..!ユミって呼ばれるほうがいいの!」 う、うん、わかったよ、そうするから、お、落ち着いて、ね?大丈夫..? 「うん....うん..」 あまり大丈夫そうではないな.. もしかして、もともとの彼氏とうまくいってなくて、二股したけどダメになったのかな。 だとしたら、帰りたくもないか.. あの、 「あの、」 同時だった。 あ、じゃあ、どうぞ、ユミ、さんじゃなくて..ユミ..。 「うん.... 今日..... サトシんち.. 行ってもい..?」 え、うん、いいよ? 散らかってるけど.. 「うん、ありがと..じゃあ、向かうから..」 煙草を吸うのを、忘れてた。 [前へ][次へ] |