- Geist - Something for you【]W】 どうも腹が立って来たので、Jは話を変えることにした。 「それにしても、今思えば、仕事熱心なお前があの時風邪ひいたなんて信じられねーぜ。なあ、恨み言は一切言わねェ、実のところ、あれ、仮病だったのか?」 「…………」 何故かKは無言だった。 その疑問は、ずっと持っていたものだった。電話番号の件は、常連だったJの友人から偶然聞き出したのだという、有り得るような有り得ないようなことで百歩譲って納得したが、それだけはどうにも分からなかったのだった。何故か訊けなかった。 しかし、父親にコンプレックスを持っていた彼を此処まで引っ張って来たのは、間違いなくKであり、今でも父と自分の狭間で悩んでいるとは言っても、以前より楽になったのは事実であった。結果良ければ全て良しと云うが、この場に至って、仮病で彼を騙していたとしても、そのことを責めるつもりは本当に無かった。 Jは、今は掛け替えのない仲間となったKを、じっと見つめてその答えを待った。 「……俺が、お前に嘘を吐いたことがあったか?」 彼の赤い唇が動いた。 其れが答えだった。それ以外の答えは有り得なかった。 Jは小さく息を吐いた。 「……ねェよ」 冗談(ジョーク)は言っても、嘘は吐かない。そんな、彼の本質的な性格(もの)を、Jは嫌と云う程分かり切っていた。 [* back][next #] [戻る] |