only you,only my mind Never care a disease【]】 刹那。 聞き慣れた着メロが流れ出した。俺の背広のポケットに入っている携帯が、鳴っているのだった。 突然、現実に引き戻された思いだった。俺は単なる携帯によって、我を取り戻した訳だ。 (俺は……何を――) 重大な罪を犯す前に、引き止められたような奇妙な感覚が俺を襲った。 「成彰?」 凛輝の声にはっとして顔を上げると、彼は俺の胸を指し、 「携帯。取らんで良いのか?」 「……悪い」 言われて小さく呟き、胸から其れを出す。 出ると、上司だった。酔っているらしく、呂律が回っていない。二次会に参加し、そのまま飲み続けているようだ。 『お前も来い〜! 楽しいぞォ〜!』 数人の女の声が重なった。その黄色い声に、嫌悪感を抱いていると、いきなり電話の相手が替わった。一年先輩の人だった。 『と、いう訳だ。お前も来い。いきなり帰るなっつーの。メンツ足んねーんだよ。お前も部長に付き合えや』 「いや…しかし」 『いやもしかしもあるかよ! 上司に付き合うのも仕事だぞ! 必ず来いよ! 分かったなッ!』 そうやって其処の場所を告げ、最後まで一方的な電話は切れた。俺は携帯を持ったまま、硬まっていた。 とんだ邪魔が入った、と思うと同時に、何処かでほっとしている自分が居るのが苛立たしかった。それ以上に、今さっき自分がしようとしていたことが、無性に恐ろしくなっていた。 俺は、六年前感じた事を忘れてしまったのか――? [*back][next#] [戻る] |