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■少年は隘路を廻る■
真虚混濁【]】

「しぃちゃん、今日、これからお邪魔しても良いかな?」

 野崎家が見えて来た辺りで要一はそう尋ねた。里耶との約束がある。時間は八時を回った。用事があると言っていた里耶だが、このくらいの時間ならば良いだろうか。

 何故か椎奈は一瞬渋い顔をした気がした。しかし、理由を訊く前に、その表情は消えていた。

「お兄と約束したの?」
「宿題一緒にやろうって誘われて。里耶は用事あったみたいだし、俺は生徒会だから今の時間になっちゃって。ごめんね、遅くに」
「そんなの良いよ!こっちこそごめんね。いっつも付き合って貰っちゃって。全然大丈夫だよ。寧ろ大歓迎」
「有難う」

 要一は快い返答に安堵の笑みを浮かべた。既に、先程の椎奈の表情に感じた疑問は気にならなくなっていた。




「要ちゃん、今日はありがとね。久々に話せて楽しかったよ」

 家に辿り着いた所で、椎奈は改まってそう言った。

 野崎家は、父が医者、母が看護師をやっており、そこそこ裕福な家庭である。そんな一家の住処は、住宅地の中でも特に立派な一軒家だ。その入口に姿勢良く立っている椎奈は、其処の住人に相応しいように思われた。

 要一も笑顔で応える。

「俺も楽しかったよ。しぃちゃん話しやすいし。皆しぃちゃんと里耶は似てないって言うけど、俺は話してると二人は似てるなあと思う」

 それを聞き、椎奈は目を見開いた。

「どんなとこが似てると思う?」
「どんな?」

 尋ねられて要一は少し考え、言葉を選んだ。

「そうだな…芯はしっかりしててブレないとこかな」

 ふとした仕草や表情、ちょっと抜け目ない所も似ているが、野崎兄妹の一番の共通点は其処だ。椎奈は年齢にそぐわず心身共に頑強だし、里耶は一見安定していないように思えるが、確実に揺れない芯がある。

「ブレない…か」

 椎奈は噛み締めるように呟き、空を見上げていた。思ったことを言っただけだったが、彼女は何かしら感じることがあるらしい。

 ――そういえばこれも、と要一は思い当たった。二人の共通点はもう一つあったのだ。何を考えているか、解らない所。

「要ちゃんは矢っ張り凄いね」
「え?」
「そう言って貰えて、とても嬉しいよ」

 真剣な表情の椎奈は、矢張り何を考えているのか解らなかった。

「あ、噂をすれば」

 突然の彼女の言葉と視線につられて振り向くと、丁度里耶が帰ってきた所だった。

 自転車から降り、柄悪く目を細めて二人を見遣る。

「何だよ噂って」
「お兄には教えないもん。要ちゃんと私の秘密〜」

 明らかに楽しんでいる椎奈に、里耶は不機嫌になった。この兄妹は、いつもこんな感じだ。
 見慣れている要一は、気に止めない。

「丁度良かった。遅くなっちゃったかと思ったよ」
「…態々悪ィな」

 不機嫌顔が少し緩んで応えたので、矢張り気にするまでもなかったらしい。

「今日もお母さん仕事でいないけど、シチューは作っててくれるって言ってたよー。三人で食べよ!」

 里耶とは対照的に、椎奈は嬉々としてドアを開け、要一を招き入れた。



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あきゅろす。
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