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■少年は隘路を廻る■
星輝儚在【U】

 野崎里耶は小学校からの顔馴染みだ。
 小さい頃から大雑把でいい加減で、逸脱した行動が多い問題児だった彼は、教師から常に目を付けられていた。

 しかし、子供達の中では中心人物だった。大人の目を気にしない里耶は、子供の間ではヒーロー的存在だったのかも知れない。似た者同士の子等と一緒になって悪戯をしては、よく怒鳴られていた。

 里耶の悪行には要一もよく怒鳴る羽目になった。
 要一は昔から子供らしからぬ程、正義感に厚い者だった。そんな要一が、里耶の悪戯を見て見ぬ振りができる訳はない。
 告げ口はまだ良い方で、多少殴り合いもする程だった。
 頑固な二人は幼い頃はお互いに天敵同士だった。


 その天敵が友人となったのは、中学の頃だ。

 その頃には既に遅刻欠席居眠り常習犯だった里耶が、授業中教師に突然当てられた時の話だ。
 明らかに居眠りしていたのを狙って指した教師に、当然里耶は対応できなかった。
 その時、丁度里耶の左隣に座っていた要一が、教師に分からぬように答えを教えてやった。要一にとっては「敵に塩を送った」程度の出来事だったのだが、里耶はそれ以来要一に構って来るようになり、今に至る。



 当初、要一は里耶の真意を図り兼ねていた。どう考えても里耶は恩を感じるタイプには見えなかったし、教師に悪印象を与えた所で意に介さない人間であることは分かりきっていたからだ。

 しかし、それまで天敵だった男は確かにいい加減な人物ではあったけれど、それでいて良い奴であることが分かってきた。
 思ったより面倒見が良かったり、相手の話をしっかり聞いてやったり、彼の見えなかった面が見えて来た。恐らく里耶もそうなのだろうと要一は思う。そうでなければ、嫌っていた人間に対して、何でもなかったようにああ明るくは振る舞えない。

 里耶は良い奴だ。
 良い奴だが。

 ――あれはないだろう…!

 要一は校門に立ちながら、未だに苛々を抑えられずにいた。
 生徒会メイン役員の朝の仕事は、生活指導部と連携して、登校時の生徒の服装をチェックすることだが、生徒会の立場、存在感を連日他生徒の眼前に呈示するという陰の目的が暗黙の了解として在るイベントである。要一がこの一般生徒が避けて通る役目を毎朝当然のようにこなし、イメージが重要な生徒会に貢献するだけでなく、教師からの信頼も厚いのは言わずもがなである。


 生徒に挨拶しながらも、真面目な彼は里耶の行為に対する腹立たしさで悶々としていた。

 里耶が良い奴なのは分かっている。確かに不良だがこの際それは問題じゃない。前々から、あの決め付ける傾向、話し方が気になることが多かったのだ。

 丁度中学三年の頃、要一は初めての彼女と付き合っていたが、去年彼女の二股が発覚し、別れることになった。

 考えてみると、それもそもそものきっかけは里耶だった気がする。
 「あの女は最悪だ。別れろ」と里耶はしつこく言って来た。何の根拠があるのか知らないが、妙に自信満々だった。しかし、それを真に受ける要一ではない。自分を信じ、彼女を信じ、里耶を無視した結果が「浮気」だった。

 だが要一は、里耶から忠告と云う名の横槍をしつこく受けた所為で、意識下の困惑が気付かぬ内に表面に出、それが彼女を不安にさせた所為だと未だに思っている。
 里耶が問題ではない。自分が重要なことを見失っただけだ。
 だから、今回は同じ間違いを犯さない。自分で真実を見極める。


 まずはあの手紙を読もう。一人になれる場所で。
 自分も相手も受容し、考えた上で会おう。そうすれば、間違えない。




 きっと見失わない。


 そう決意すると、少し気分が晴れた気がした。




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